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 ■060809書評集


 ■おもしろいのだけれど、時間がかかる        2006/8/9

 『裸の経済学』 チャールズ・ウィーラン
 日本経済新聞社 2002 2000e

 


 ちかごろ読んだ日常生活の経済学シリーズのなかではかなりおもしろいほうだが、読むのには時間がかかった。読むのをためらってしまうのだな。類書として、ミラー、ノースほか『経済学で現代社会を読む』やランズバーグ『ランチタイムの経済学』、デイビッド・フリードマン『日常生活を経済学する』などがあった。

 経済学というのは社会学に近いと思う。損得を考えて人はどう行動するとか、規制は人の行動をどう変えるとか、保護はなにをもたらすとか、社会について考える学問である。社会学より身近ではなく、わかりにくいと見えるのは、不可解な図表や難解な数学の使用によるところが大きい。これらをとりさったら、人間や社会の行動を考える日常的な考察だということがわかるのだが。より人の判断や行為の結果が見えやすい学問といえる。

 こういう経済学から見た社会のありようというのはせび頭に入れておきたいと私は思う。たとえば禁止や規制を行えば人はどのような行為をおこなうのかといったことや、市場主義や保護主義はなにをもたらすのか、といったことなどだ。損得や経済論理から見たほうが社会はよりよく理解できるというものである。

 章のタイトルは「市場の持つ力」、「動機は重要である」、「政府と経済」、「利益集団の持つ力」、「経済指標の意味」、「貿易とグローバリーゼーションなどである。どれもこれも興味の魅かれる内容をあつかっており、興味深く読めるのだが、ちょっと量の多さはたじろぐに値する多さである。要点や感銘した説明を抜き出して書きたいところだが、そういう要点やまとめのしにくい本であるところが、この本の残念なところかもしれない。

 あえて強引に引用する。
 「この種の規制措置が社会の「援助の手」となることは少なく、腐敗官僚が金銭を「横領する手」になることが多いのではないか、と経済専門家は疑問視している」

 「現在より良い生活をする代償は、将来は今より劣る生活をすることである。その逆に、現在倹約して生活する報酬は、将来は今より良い生活をすることである」

 「問題とは、政治家が古い構造を保護すると決める場合、我々が新しい経済構造の利益に浴せない、ということである」

 「もしあなたのおばあさんが、フライドチキンの値段が自分が育ったころより今の方が高い、と不満を漏らすことがあったならば、それは表面的な意味でしか正しくない。1919年当時、平均労働者は、チキンを買うに足るお金を稼ぐために二時間三十七分を要した。今日、チキンを「稼ぎ出す」ために、どのくらい長く働くだろうか。十四分である」

 「実質と名目を混同するとんでもない常習犯は、ハリウッドであって、毎夏、何かつまらない映画が新らしい入場料記録を作った、と宣伝する。2002年の総収入を1970年あるいは1950年の総収入と比較しても、その間のインフレを勘定に入れて調整した数字でない限り、おかしな話である」





 ■期待はずれ                   2006/8/13

 『21世紀版 スピリチュアル・マネー』 スチュワート・ワイルド
 VOICE 1989 1800e

 


 精神世界のお金の本を読みたくなったのは、なにかお金に関して道徳的な話が聞けると思ったからだ。お金儲けを悪くて貪欲なものと一面的に決めつけるのではなく、利他的で人の役に立つものというポジティヴな面を教えてほしかったからだと思う。私は自分に欠けているであろう人のために生きる喜びを教えてもらいたかったのだと思う。

 そういう面ではこの本は期待はずれだった。この著者の行動やすすめる行動を読んでいると、とんでもない人だなとか、人に誤解されるだろうという箇所に多く出会った。身近にこんな人はいてほしくないという感じだった。信用がガタ落ちだから、よい言葉や内容もあるのだが、どうも素直に受け入れられない。たとえば自分の会社の社員にかがり火の上を歩かせ、そのくらいできないようでは客の無理な注文にも応えられないという。ほかに選択の余地がない社員にビジネスとしてこんなことは要求してならないだろう。

 それでも赤線をひいたり、ドッグイヤー=角を折ったりした箇所もあるので、いちおう抜き書き。豊かさの尺度はお金の量でなくて、感情の問題、他人に認められたいと願うのは自分で自分を認めるやりかたを知らないからだ、安い見返りを期待すると安っぽいやつと見なされるから値段は高く設定しろ、世間のニーズと業者のやりそこねていることをあなたのサービスに活かせ、あなたの心は親友であり敵――自分の可能性を限定し、低めに評価する、大金持ちになるにはそうとうハードでありのんびりできない覚悟はあるか、などである。

 本の表紙に「伝説のマネーバイブル」と印刷されているが、すくなくとも私には道徳的なスピリチュアの教えが欠けているように思われる本であった。





 ■景観に神を見い出す心性               2006/6/17

 『神と自然の景観論』 野本寛一
 講談社学術文庫 1990 1000e

 


 都市に住んでいるとわからないが、山に登ってみるといろいろなものが祭られていることに気づく。人がほとんど通らない山の中に祠が祭られていたり、地蔵がすえおかれていたり、岩や木々、滝などが神として崇められていたりする。

 私は都市の中の祭られているものにはあまり感慨を抱かないのだが、だれもいない山の中にそのような神として祭られているものを見ると、なにか畏怖の感情やどのような気持ちが込められているのだろうとか、どのような意味があるのだろうかと神妙な気持ちになる。人がほとんど通らないような山の中にそのようなものがあるというコントラストが、神秘さをかもし出すのである。

 都市に住む者にはそのような崇拝の意味は断絶させられている。祭られている意味がまったく継承させられていないのである。岩や木々、滝などにどのような聖性や神性が込められているのだろうと不思議でならない。同じように神社や寺もなぜこの場所なのかという疑問もわいてくる。

 そのような疑問に答えるには本書がふさわしいだろう。日本人が自然の地形の中にどのような神や意味を見い出してきたのか、探究されている。火山や河川の氾濫、岬、洞窟、滝、離島、温泉、山などに信仰のありようがさまざまに探られている。

 正直なところこの本はいまいち物足りない気がしている。全国各地のおおくの自然地形の聖性がとりあげられているのだが、それらの神に人々が込めてきた気持ちや感情がいまいち伝わってこないのである。たぶん私はその込めてきた気持ちを追体験したいのだろう。私はそれを知らないのである。人びとの恐れや崇める気持ちをよりよく知りたいのである。

 この本は全国各地の神の景観の写真が多く載せられているからどのような景観が祭られているのかよくわかるが、人びとの込められていた気持ちには届いていない気がするのである。

 都市の中にはかつての人たちが自然景観の中に神を見い出した神秘さはない。ショッピングセンターや駅、場所などに似たような気持ちを抱くことはあるのかもしれない。しかしあまりにも都市は平板である。田舎の景観の中に神性の帯びたものを見い出すと、私はなにか宝のようなものを見つけた気がするのである。だから私は都市より自然景観のほうに興味が魅かれるのである。





 ■倫理に答えなどない            2006/8/24

 『図解雑学 倫理』 鷲田小彌太
 ナツメ社 2005/2 1400e

 


 私たちは毎日、倫理的問題にぶちあたっているはずである。とくに人間関係においてそうだろう。「こうすればよかった、ああすればよかった」、「こんなことを言ってよかったのか」、または「どう行動すればいいのだろうか」などなど、これらはほとんど倫理的問題にかかわるものである。生き方や社会について考えるのも倫理といっていいだろう。

 私の考えてきたことがらもほとんど倫理的問題といってもさしつかえないと思う。それなのに倫理を考える方法論も、また手順や解決の道しるべももたない。いきあたりばったりである。倫理を考えるさいにはどんな基準をもてばいいのだろう。

 ジュンク堂で倫理の書棚を探してみたら、ほとんどめぼしいものがない。私は倫理についてどのような考え方の道筋をもてばいいのだろう。

 この本はひじょうに日常的な疑問を考えているのがいい。援助交際やいじめ、働くこと、お金など、かなり身近な問題をとりあつかっている。倫理というのはこのような身近な問題を考えたい。

 ただし、答えを教えてもらうのではなくて、考える基準や道筋を教えてもらいたい。私は答えより、考えているなかでの納得やひらめきを得たいから、自分で考える必要性を感じるのである。人に教えてもらった答えは、自分の深い納得はないのである。だから疑問や謎の戸口に立たせてくれるような本のほうがふさわしいと思うのである。

 倫理に答えなんていらない。人の生き方や行動に絶対の正解などあるわけがないからだ。だから考えさせてくれて、納得する機会を与えてくれる、考えるための道筋やきっかけを与えてほしいのである。人生とは永久の倫理的問題なのだろう。





 ■なぜお金だけが老化しないのか          2006/8/28

 『エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」』 河邑厚徳+グループ現代
 NHK出版 2000/2 1500e

 


 なるほど、「老いるお金か」。老いるお金を主張したのは、シルビオ・ゲゼルという思想家である。自然界では老いないものはないのだが、お金だけはゆいいつ、老化しない。だから長期的に価値が維持されるお金が神のごとく崇拝されることになる。

 そればかりか、人に金を貸すと利子までつくのである。お金とはほんらいモノや労働の交換のための道具である。利子は交換を妨害する。不況になりみんながお金を手元に残しておこうとして交換が行われなくなると、ますますモノや労働の交換がおこなわれなくなり、失業や貧困にあえぐことになる。

 1930年代の大恐慌期にそういうことがおこり、ドイツやオーストリアで「滅価するお金」を実践した町があった。手元においておいたら、価値がどんどん減るのだからそのお金はどんどん使われてゆくことになる。大恐慌ではだれもがお金を使おうとしないのだが、そのさなかにオーストリアのヴェルグルという町では大成功をおさめたのだが、中央銀行によって阻止される。

 なぜお金だけが劣化しないのかと考えたらふしぎなことだ。さらにはお金はお金を増やすことができるのだ。ここに権力の差が生まれ、富者と貧者が別れ、交換や経済は阻害され、いさかいや戦争の根源となる。「老化するお金」はそのような弊害をおおく消滅させることだろう。

 しかしまっ先に疑問に思ったのは、貯蓄がおこなわれなくなると、ケガや不作によりモノや労働が売れないときにはどう生計をたてたらいいのかということだ。老化するお金は交換を促進するが、貯蔵の役目がなくなる。また利子がないばかりか、老化するお金を導入しようとすると、銀行やローン会社は大反対を巻き起こすだろう。

 しかしこの老いるお金が提議するものは、お金というものはいまのあり方が絶対的なものではないということだ。ひとつの約束や決め事、あるいは観念の具現化にすぎないということだ。お金は別のあり方や機能を持たせることもできるのだ。永久に価値を減じないお金というものがいかに不自然なものであり、私たちから自由や幸福を奪いとっているか計り知れない。

 かつて古代エジプトや西欧中世にも減価するお金が使われていたことがあったそうだ。古代エジプトでは劣化する穀物に対応するために減価するお金がもちいられたのだが、そのために長期的な利益をもたらすもの――灌漑や土地の改良に投資された。西欧ではカテドラルがおおく建てられた。マイナス利子のばあいには長期的に価値が維持されるものに投資され、プラスの利子のばあいには、より短期の利益をあげるものに投資されるのである。われわれの社会は利子や借金のために働いているふうになっており、十年や二十年でダメになる自動車や家はその短期利益のためなのである。

 利子は借りた者だけに関係があるものではない。資金を借りるコストは商品の価格に上乗せられるし、おまけに土地の賃料も覆いかぶさってくる。お金がお金を生み出すようなしくみはどうもわれわれの人生や社会の敵であるかもしれない。もし減価するお金が導入されれば、われわれの人生や社会はどのように変わるのだろうか。すばらしい社会になるのだろうか。

 この本はじつにお金のほかのあり方についての可能性を考えさせてくれる本であった。





 ■商売はお金から見ないと              2006/8/29

 『図解「儲け」のカラクリ』 インタービジョン21編
 王様文庫 2001/6 495e

 


 私は商売や仕事をお金の面から捉えることがあまりない。仕事を会社から与えられて、こなすものとしか考えていない。お金の計算がない。儲けや利益の面から捉える視点ももたなければ。ということでこの本。

 ラーメンやハンバーガーの原価がいくらで、利益がどのくらいだとか、コンビニやファミレスの売り上げがどのくらいだとか、知っているようで知らない商売の儲けが読める本である。

 たとえば聞いたことがある人もいると思うが、コーヒー一杯400円だとすると、豆や砂糖などの原価は80円で、利益は320円である。儲けばかりではなくて、そこには高い家賃などがつくのである。たばこが250円だとすると、140円ほどは税金で、税金を吸っているようなものだ。あとは製造コストや販売コスト、流通マージンがつき、利益は13円。

 コンビニの月間売り上げは約1800万ほど、セルビデオ店は320万円、宅配ピザ店は700万円、マンガ喫茶店は300万などの平均的な数字があげられている。そこから家賃や人件費などが引かれ、利益がのこるのである。自販機は売り上げの10〜15%のマージンをうけとれ、一日30本売れるとすると、年間20万ほどの儲けになるそうである。

 私はお金の計算をする仕事にかかわっていないが、仕事や商売をこういうお金の計算から見る必要は、どんな業種でもあると思うのである。でないとインセンティヴが儲けや利益でない部分に行きがちな気がするのである。





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