1998 SUMMER COLLECTION
日本の正体―これからの生き方―民主主義etc.


                                  新しい本が上です。(98/5/30.更新)




   『現代アメリカの保守主義』 佐々木毅 岩波書店 同時代ライブラリー
                  84/10. 900円

         現代アメリカの保守主義

      この本の中でいちばん銘記しておきたいのは、ニスベットの指摘する

     「柔和な専制主義」である。

      「肉体的強制を受けることによってではなく、人道主義的なスローガンや

     新しい平等主義によって自発的に専制主義に屈服することによって、

     権力の強化は人々の内面やプライバシーに入り込む形で――目に見えない形で――

     着々と進行しつつある」というものである。

      このような社会では自由な幻想とともに「大きな政府」と官僚制にからみとられる。

      理想や正義という穏やかなよきものほど、恐ろしく暴力的なものはない。

      結果の平等と大きな政府は、官僚化と画一性、平準化、機械化をもたらし、

     創造的、文化的な自由を破壊してしまうのである。

      近代の人道主義的なスローガンがわれわれの自由を絞め殺してきたのだろうか?




   『スミス・ヘーゲル・マルクス』 難波田春夫 講談社学術文庫 48/6. 780円

        

      国家が社会や経済、福祉のなんでもかんでもを引き受けるようになった思想的経緯を

     知りたいと思ったのだが、ヘーゲルの抽象的な言葉使いには参った。

      「アダム・スミスの市民社会には、自由はあるが正義はなく、

     マルクスの社会主義には、正義はあるが自由はない」という指摘はいちおうマーク。




   『アメリカの保守とリベラル』 佐々木毅 講談社学術文庫 93/5. 780円

         

      アメリカの保守主義とネオ・リベラリズムの流れがよくわかる本であり、

     それらについて細切れな知識しかなかったわたしには目の醒める思いがした。

      かんたんにいえば保守は「小さな政府」をめざし、リベラルは「大きな政府」である。

      保守主義にはフリードマンやベル、ニスベット、クリストルたちがいて、

     ネオ・リベラリズムにはサローやライシュといった人たちが入るそうだ。

      わたしは保守主義のほうが心情的にはひいきにするのだが、

     いまのクリントンの時代にはそんな分け方はもはや意味をなさないようだ。




   『「耕す文化」の時代 セカンド・ルネサンスの道』 木村尚三郎 88/2.
                     PHP文庫 480円(古本)

         「耕す文化」の時代

      現在のように世の中がどちらの方向に向かっているかわからない時代には、

     高度成長の落とし子である体系的な大思想も生まれないし、よりどころは

     過去の掘り起こし――先祖の知恵とか伝統から見つけてくるほかないといっている。

      忙しい工業社会ではあまり酔わないビールが好まれ、生活を楽しむ国では

     ワインを好むと指摘されているが、昨今のワインブームはその現れか。




   『アンシァン・レジームと革命』 A.deトクヴィル 1856 
             講談社学術文庫1400円/ちくま学芸文庫

         講談社学術文庫

      トクヴィルの重要な書かもしれないが、わたしにとってはあまり

     わかりやすくなかったし、おもしろくもない退屈な書だった。

      実際的任務にたずさわらない文人や作家たちが現実をわきまえないで、

     急激な革命や空想的な社会を、自由より先にもとめたというあたりはおもしろかった。




   『現代民主主義の病理 戦後日本をどう見るか』 佐伯啓思 
                  NHKブックス 97/1. 874円

         

      アメリカ化し、デモクラシー化し、サブ・カルチャー化してきた戦後日本は、

     国家意識の信頼性を破壊し、政治権力を無力化し、経済の信頼性を破壊してきた。

      現代日本の閉塞感は抑圧されているというよりか、あまりにも節度や規律が

     失われたための開放されすぎた閉塞感ではないかと著者はいう。

      あまり頭をがつんとするような本ではないが、根源的な問いをまるでおこなわない

     戦後日本の方向性に懐疑を投げかける本である。





   『正統の哲学 異端の思想 「人権」「平等」「民主」の禍根』 中川八洋
                    96/11. 徳間書店 1900円 

         

      衝撃の書である。

      人間の解放をうたったルソーはじつはスターリンなどと同じく全体主義者であり、

     フランス革命は平等などのスローガンとともに自由や生命を抹殺する革命であり、

     全体主義国家ロシア革命の先駆けにほかならなかったという書物である。

      平等や民主は善いものだという先入観がすっかりひっくり返ってしまう本だ。

      平等をもとめたり過去の伝統を破壊してしまうと、個人は丸裸で放り出され、

     国民の要求によって無限大に肥大化してゆく国家権力に蹂躪される結末に陥る。

      権力を抑制していた伝統的な中間組織が破壊され、守られなくなった個人は、

     フランス革命やソ連、ポルポトなどの大量虐殺の憂き目に遭う。

      ひじょうに説得力のある書であり、納得できるのであるが、

     保守主義という立場には、いささかの混乱といくらかの疑問が残る。

      この書は民主とか平等という概念による過ちの歴史が一望できる優れた書である。

      保守主義について考えてみました。「理想社会というパラドックス」





   『悪の民主主義 民主主義原論』 小室直樹 97/11. 青春出版社 1600円

         

      現代日本のさまざまな禍根は民主主義の無理解から生まれたといい、

     その誤解を解くために予定説やロックの思想、身分制度から生まれた議会、

     などの歴史が語られた本である。

      どうもわたしには民主主義の歴史と誤解のつながりがしっくりとこなかった。

      愚かな読者のわたしは小室直樹に関しては、気をつけて文章を追っているのだが、

     長々と歴史を読まされたあと、だからなんだったんだ?と、思うことが多い。オソマツ。





   『封建主義者かく語りき』 呉智英 91. 双葉文庫 486円

         

      「ファシズムは民主主義である!」

      この本は民主主義とか自由とか平等などを疑わせる契機を与えてくれる、

     目からうろこが落ちるよい本だ。

      無条件、無前提にスバラシイと思われているものほどタチの悪いものはない。

      それらはぼんやりとヨイものだと信じ込んでいるが、ほんとうにソーなのか。

      圧制や圧迫、不自由、閉塞状況を生み出しているのはそれ自身ではないのか。

      無条件によいことは聖なるものになり、批判も疑われることもない

     「白昼の死角」になってしまうキケンなものである。

      生き方や職業などの画一主義も民主主義が生みだしたとするのならわたしのテキだ。

      手放し賛美の民主主義を疑う気にさせるオドロキの書である。





   『良い上司 悪い上司 生き残る管理職の条件』 江坂彰 PHP文庫 
                      95/12. 514円

        

      江坂彰はもう何冊も読んだからか、この本にはあまり目新しいことがなかった。

      かつて新人類とよばれ、「内ゲバを企業内でやり出す」といわれた団塊世代は、

     まえの世代より会社人間化し、既得権にしがみついて若者を犠牲にしている。

      新しいことが行われず、日本経済を凋落に導くだろうといっている。





   『政府からの自由』 ミルトン・フリードマン 84/2. 中公文庫 860円(古本)

         

      「政府の社会政策は期待と正反対の結果をもたらす」

      「官僚組織は、経済的宇宙におけるブラックホールである。資源を際限なく

     吸い込みながら、産出量においては縮みつづける」――なるほどである。

      また政府が仕事を増やしていけばいくほど、「自分にはなんの義務もない、

     なんの責任もない、好きにやればよい」となって道徳的荒廃が起こる。

      経済だけではなく社会道徳としても政府は害悪を垂れ流しているだけなのか。

      不平等や貧富の差から民衆を救うという神話も、組織的計画も、

     けっきょくは権力や不平等とみごとに結託するというオチで終わる。

      人間に不可能なことはあまりにも多いので盲信しないほうがいい。




   『満足の文化』 J.K.ガルブレイス 93/9. 新潮文庫 438円

         

      現状の社会的経済的利益に満足する人たちが多数となった社会を分析している。

      満足する人たちが隠蔽してしまう社会の現実を批判的に直視している。

      だれもやりたくない仕事は貧しい人たちがやらなければならないといったことや、

     下層階級からいまや上昇志向の夢が奪われ、それがテロと絶望の原因になっている、

     大企業は消費者に従属するのではなくその逆である、大企業にも官僚病が覆っている、

     などの指摘がおこなわれている。





   『歴史序説』 イブン=ハルドゥーン 講談社 人類の知的遺産 1500円(古本)

        岩波文庫

      イブン=ハルドゥーンは14世紀イスラムの歴史学者。

      ヨーロッパ学問に先がけて精緻な文明論を展開したことは驚きであるが、

     たんにわれわれがヨーロッパ以前の文明を下等だと思い込んでいるにすぎない。

      家系で名門を保てるには四世代までとか、王朝の寿命は三世代120年だとか、

     都会での奢侈的な生活が文明の老衰を導くといったことがくわしく説明されている。

      田舎や砂漠の野蛮な民族ほど連帯意識がつよく、支配権を獲得しやすいが、

     都会での奢侈がその衰退をもたらすというのはいつの時代でも変わらないようだ。





   『ビジネスマン人生の損と得/プレジデント98/5 プレジデント社 1000円


      「ビジネスマンに明日はあるか?」という特集が組まれていた。

      予定調和型の生き方がむずかしくなった現在、45才以上は会社にしがみつこうとし、

     35才以下はこれではダメだと割り切り、その中間の人たちの生き方ははっきりしない。

      手厚く年功序列によって保護されてきた人たちはカルチャーショックが大きい。

      含み損を抱えた会社人間は会社にしがみつこうとするが、出向先はラッシュアワー、

     よりどころはもはや家庭にもないし、ローン破産、妻からはリストラ離婚だ。

      危機感をもって前向きに自分を磨くしかないといわれるが、35才以上の転職市場は

     ほぼないに等しいし、自己啓発やスキルを磨く場も見つからない。

      こんな八方ふさがりの状況が出口のない不況をうむ。

      堺屋太一はこれからの社会は、停滞の家康型社会か成長の信長型社会か、

     いままた選択の「関ヶ原」の決戦に立たされているといっている。




   『さらば会社人生/Newsweek日本版4・20』 TBSブリタニカ 400円


      出世の階段を降りる生き方を「ダウン・シフティング」といい、

     90年代に入ってアメリカやヨーロッパでトレンドとなったそうだ。

      とうぜん収入は落ちるが、会社やカネ、モノ、時間に囚われない、

     自由で心豊かな暮らしが送れるかもしれない。

      不況やリストラが盛んになると雑誌は敏感にこういう特集を組むのだろう。

      本流にはならないかもしれないが、今までの価値基準から脱皮する人間が

     今後増えてゆくに違いないとこの雑誌ではいっている。

      もちろんわたしもこれまでに比べて、そういうことを求めるのがまともだと思う。




   『日本人の行動文法ソシオグラマー 「日本らしさ」の解体新書』 竹内靖雄
                  95/10. 東洋経済新報社 1800円

         

      日本人や集団のソシオグラマー、考え方、システムなどをひとつひとつていねいに

     のべた本であり、規範を捉えるのはむずかしいから、ひじょうに労作だと思う。

      ソシオグラマーの辞書のようになっているが、連関を捉えるのはむずかしい。

      日本的集団のソシオグラマーを知っておくことは必要だし、

     官僚や政治家のソシオグラマーなどはなかなか参考になる。

      どのようにこの社会が動いているか知らないとダンプカーにひかれてぺしゃんこだ。




   『タテマエとホンネ 日本的あいまいさを分析』 増原良彦
          84/9. 講談社現代新書 450円(古本)

        タテマエとホンネ

      日本にはなぜタテマエとホンネという「たくらみ」があるのか。

      著者は日本には道徳的基準がなく、絶対的基準(宗教的理想)しかないから、

     その理想だけではどこかで破綻するから、タテマエとホンネが生じたという。

      また戦後日本では差別が悪になり、すべての人が平等になるという理想を

     もったから、そんなことは現実的には不可能だから、タテマエとホンネが

     必要になったというワケだそうで、それは戦後日本の知恵だという。

      しかしタテマエだけを真に受けて信じてきた人はどうなるのか。

      弱者は騙されて、損するばかりで、人間不信におちいるだけだ。

      タテマエとホンネというずるさにだまされてきたわれわれは、

     エライ人の理想やキレイ事、または広告は割り引いて聞くほうが得策である。




   『超大国ニッポン ドキュメント イギリス人の見た戦後の日本
   W・ホーズレイ R・バックレイ 91/8 日本放送出版協会 1800円(古本)

         ドキュメント超大国ニッポン

      戦後日本の歴史を描いた本だが、ひじょうにおもしろいし、わかりやすかった。

      事実だけをのべるのではなく、批判や率直な意見をのべているからだろうか。

      民主主義の国から見た日本システムの歪みがはっきりと表されているからだろう。

      占領期に憲法と政体は変わったが、経済の民主化は失敗した。

      経済官僚は戦前と同じく支配者グループのための無責任な政府を継承し、

     国民を経済搾取し、現在ではアメリカと摩擦を生む原因になっている。

      「権力グループのための政府」を解体することは、日本の全歴史を通じて、

     夢のまた夢なのだろうか……。

      「国民のための政府」は日本人には恒久的に得られないのだろうか。




   『21世紀の企業システム 変われ日本人甦れ企業』 堀紘一
                 87 朝日文庫 530円

        21世紀の企業システム

      ウレシイことを言ってくれている本である。

      なぜ企業だけが富み、社員は貧しいのかといったことや、

     優良企業は社員が幸せになる企業だといったことがいわれている。

      おまけに日本的経営の欠陥や弊害、キケンな要素が、

     ひじょうに具体的にサラリーマンの目線で語られているのがいい。

      個人を犠牲にした経済の繁栄と市場性のないエリートの大量生産は、

     成功の復讐を招くだろうという言葉はいま、現実のものになっている。

      経済環境が激変しても、ひとつの会社に長く勤め、その仕事が自分自身の

     アイデンティティになっている人はなかなかほかの職に変われないのが悲劇だ。




   『「弱い」日本の「強がる」男たち お役所社会の精神分析』 宮本政於
                93/10. 講談社+α文庫 780円

        

      残業という日本的甘えの社会や集団のなかの自己犠牲、マズヒズム、

     といった日本の組織集団にすべて共通する性質をさらけだした本である。

      なぜ日本の組織はいつもみんなといっしょで、自己犠牲とマゾヒズムを宣伝する、

     こんなおぞましい、強制的な集団になってしまったのだろうか。

      母性的関係から自立できない日本の男は、個が確立せずに組織と妻に依存し、

     個人や女性が独立してしまうとその精神的安定が乱されてしまうから、

     一糸乱れずの集団主義の一体感の防波堤の中に踏みとどまろうとするのである。

      甘えから抜け出るには、自分の弱さを知り、自己主張という強さの練習をすることだ、

     そのための分析がなされているのがこの本だ。




   『入り口を間違えた日本 日本人がこうなったのはなぜか(上)』 栗本慎一郎ほか
              95/10 カッパサイエンス 光文社 890円

          

      加藤典洋の「大新高」の時代変遷や、三戸公の家なくして日本なし、

     山口昌男の敗者のネットワーク社会などの講義録がおもしろい。

      近代日本の生成過程を探った本である。




   『さらば! 貧乏経済学 新しい豊かさと幸せを求めて』 日下公人
               86/9. PHP文庫 420円(古本) 

         

      これはすばらしい本だ。ぜひみなさんに読んでもらいたいが、絶版?

      のっけから、教会から解放された個人はふたたび国家に隷属するようになったなどと、

     社会の意識のさまがわりがのべられていて、圧巻である。

      もう10年前以上の本だが、貧乏経済学から抜け切れないのは今も同じだ。

      貧乏経済学というのはモノがない時代にいかに金持ちになるかという経済学で、

     こんな発想に凝り固まったままでは、もうつぎの時代は乗り切れない。

      工業化の論理では生産と貯金が増えてゆくだけで、こんなオヤジの発想では

     もう経済や社会を盛りあげてゆくことも、不況から脱出することもできない。

      消費や文化の開発は生産の増強よりもっと人間的な能力が必要になるが、

     オヤジの論理が高圧的になっているこの社会ではまず望むべくもない。

      むかしは怠け者が犯罪視されたが、これからはクソまじめなオヤジが犯罪者だ。

      人々の楽しみや好みを剥奪するオヤジ社会は、工業化の論理とともに棺桶入りだ。




   『本田宗一郎からの手紙 現代を生きるビジネスマンへ』 片山修編
              94/4. 文春文庫 419円

         

      仕事になんの楽しみもやりがいも見出せないわたしは、

     やっぱりこの世では生きにくい。

      このままではメシが食えないので、仕事のコツを伝授してもらおう。

      現代の経営者の話を聞くなんて宗教じみていてあまり好きではないが、

     どんなふうに会社や仕事について考えているのかのぞいてみるのも悪くない。

      オトナに『いい子』といわれているようでは前世紀の考えから一歩も出れないとか、

     本田宗一郎も親父にむかしは新しいことがなんでもできたといっていたそうだ。

      ふむふむ、いろいろいいことを言っているのだが、これからは企業のことより、

     社会や文化、楽しみを充実させる方向に人々はパワーをそそぐべき時代だと

     思うのだが、企業の論理からだれひとりとして抜け出せない。




   『日本の陰謀 官民一体で狙う世界制覇』 マービン・J・ウルフ
                84/5. 光文社 1200円(古本)

        日本の陰謀

      利益を無視した低価格商品をアメリカに輸出し、そのあいだは政府や通産省が

     ウラで工作して補助金をその業界に流すといった仕組みがあからさまにされている。

      アメリカのそっくりのコピー製品をアメリカでもっと安く売り出すのがほんとうだしたら、

     だれだってやり方が卑怯だと思うだろう。

      国家をあげて産業を擁護するのなら、資本主義の自由競争がなりたたない、

     と貿易摩擦の中での激しい怒り声が聞こえてくる。

      国が後ろ盾するなら勝ち目がないといっているが、

     この国のなかで搾取されている当のわれわれも国への勝ち目がない。

      アメリカ産業界だけではなく、「国家の陰謀」に搾取されているわれわれもヒサンだ。

      国家の陰謀ではなく、通産省ムラや大蔵省ムラの既得権益と自己保身かもしれない。




   『真昼のニッポン 日本人「無敵」の時代は終る!』 ディック・ウィルソン
                 87/4. 三笠書房 1300円(古本)

         真昼のニッポン―日本人「無敵」の時代は終わる!

      日本に住んでいながら、社会のほんとうの姿、社会の規範というものが、

     なかなか見えないし、わからなくて混乱する。

      原理原則ではなく、人情や人間性が第一のルールになっているようだ。

      この本では内部崩壊しはじめた日本人や法より人間関係が優先されている、

     といったことなど鋭く批判的にのべられている。

      順応主義と集団主義が大手をふる形だけの形式社会は精神崩壊をとめられない。




   『ジャパニーズ・マインド すれちがう善意、すれちがう敵意
   ロバート・C・クリストファー
 83/12. 講談社 1500円(古本)

        ジャパニーズ・マインド

      敗戦直後から日本をながめている著者のていねいな日本分析の本だ。

      集団でしか満足を得られないことを教える日本の子育て法に問題を感じた。

      対立を避けるから集団主義になることや、官僚の権威は民主主義の否定だとか、

     戦前の知識人への弾圧が右翼の恐怖を生み出した、などが指摘されている。

      自分自身を客観的にながめるにはやはり外国の人の目が助けになる。




   『シレジウス瞑想詩集』 岩波文庫 1675 上下各520円 

        

      世俗のことばかりに埋もれていたら、清らかな心をのぞみたくなる。

      シレジウスは17世紀の神秘主義的宗教詩人で、2行詩のこの本は読みやすい。

      神を信じなくとも、この本は心のテクニックをいろいろ教えてくれる。

      望みや思いを捨てることによって、神の国に入れるようだ。

      だがわれわれの社会は欲望をあおることによってしか経済は回らない。

      欲望は苦しみしかもたらさないことを知りながら国を豊かにするほうがいいのか、

     それとも心の豊かさ(捨てることでしか得られない)を望むほうがいいのか。

      「ああ人間よ、あなたは自分の中に神とすべてのものを包摂しているのに、

     どうして外に向かって何かを求めようとするのか」





   『うめぼし博士の逆・日本史 昭和→大正→明治』 樋口清之
             祥伝社ノンポシェット 86/11. 590円

        うめぼし博士の逆(さかさ)・日本史―昭和→大正→明治

      現代日本を文化から理由づけるのは危険だし、優越感で語るのは

     あまり好きではないが、まあそれをのぞいてこの本はなかなかおもしろい。

      身近な話題から歴史を語って、いろいろな雑学的知識が感嘆させる。

      江戸時代から登校拒否があったとかなかなかおもしろい。





   『透明な存在の不透明な悪意』 宮台真司 春秋社 97/11. 1700円

         

      エリート神話が崩壊したいま(?)、宮台真司はどのような生き方をすればいいのか、

     指し示してくれているかもしれないので、この本を読んでみた。

      学歴などの安全パイをつかむ親がすすめる生き方は、流動期の社会では、

     失敗を怖れるがゆえに有害になっていると指摘している。

      社会分析もまた優れていて、70年代に家族幻想が崩壊したとき、

     学校幻想という学歴競争がそのすき間に入り込んだというのは納得する。

      「専業主婦廃止論」というのも賛成だ。

      郊外住宅地の自堕落な権力者たちは「オバタリアン・バッシング」だけでは

     まだまだダメだ、子どもに依存しない自分の人生を生きるべきだ。

      その裏面には終身雇用にしがみつくオヤジたちの空虚な人生があるわけだ。





   『日本人論・日本論の系譜』 石澤靖治 丸善ライブラリー 97/5 700円

         

      この本はこれまでの日本論の流れを類型化し、そのエッセンスを抽象するような本と

     思っていたが、有名な日本論の書評だった。

      もちろん日本論の系譜をまとめた優れた本だ。

      日本論が社会・文化分析からビジネス分析へと変わってきているのがわかる。

      文化的解釈が現状維持の権力作用になっていることに問題を感じた。





   『ウォルフレンを読む』 関曠野編 窓社 96/5. 1880円

          

      ウォルフレンをはじめて読んだとき、ほかの人はどう思ったのか知りたくなった。

      こんなひどい国に住んでいながら、ただ現状維持だけで生きている人たちの、

     この本への反応を知りたかったのだ。

      そのさまざまな読者の反応を知ることができるのがこの本だ。

      多くの人はこの国はおかしい、変わらなければならないと思っているようだが、

     官僚パージなどの「広報宣伝」はあったが、人々が変わった気配はまるでない。

      中流階級とよばれる人たちがあまりにもサイレンス過ぎるのだ。

      『権力構造の謎』をNHKや民放テレビでとりあげたり、教科書に採用したりして、

     この国はタテマエではない、ヤミ権力で動いていることを知ってもらわなければならない?




   『大江戸生活事情』 石川英輔 講談社文庫 93/8. 544円 

         

      これはオススメの本です。殖産興業の近代政府以降、封建社会、後進性の悪役に

     仕立て上げられてきた江戸時代ののどかな、豊かな暮らしの見直しを図った本である。

     江戸時代は貧困の暗黒時代だと思い込まされてきたが、はたして現代日本は国が富んでも

     個人は貧しく犠牲にされたままだし、民主主義政治がとても機能しているようには思われないし、

     エコノミック・アニマルでぜんぜん生きている意味がない状態なので、江戸時代のほうがよほど

     よい人生、自由な生き方を満喫できたのではないだろうか。

      経済主義、軍国主義の近代社会のネガとしての江戸社会を見直すべきだ。



    日本論などのテーマはつながっています。「98春に読んだ本」

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