■経済成長は人を幸福にしない。 2005/10/13
『経済成長神話からの脱却』 クライヴ・ハミルトン
アスペクト 2004 1600e
かなり考えさせられる名著であった。われわれはモノにあふれ返った豊かな社会からどこに行けばいいのだろう? 経済成長や金儲けしか知らない頭には強烈な冷や水を浴びせかける論考であった。ただし、私は5章から8章はほとんど退屈だったが。
どこの国の政治も経済成長を最大の目標にしているが、それは幸福や満足とは結びつかない。西欧諸国もそうだし、日本にいたっては、1958年から1991年のあいだに実質GDPは六倍になっているが、人生に対する満足度はまったく変わっていない。それなのになぜまだ経済成長を求めなければならないのか。本書いわく「経済成長は幸福を作りだすものではなく、不幸によって維持されるものなのだ」
「ほとんどの中流階級と多くの労働者階級の二十世紀アメリカ人にとって、人生とは休みなく"いい生活"を追求しつづけ、くり返し自分の無力さを思い知らされることだった」
「世界でもっとも裕福な国民が、自分たちはみじめだ、こんな生活はいやだといい、そしてなにより、金持ちになるという過程そのものが問題を引き起こしている」
われわれの社会はすでに必要なものは多かれ少なかれみんなもっていると感じている。しかしそれは消費者資本主義にとってはいちばん危険なことだ。そして企業や広告は商品のわずかな違いが、消費者の人生の質を大きく変えてしまうように信じさせるのである。
「わたしはなにものなのか、わたしはなにものになりたいのか。意味とアイデンティティに関するこの質問は人間が発するもっとも深遠な質問だが、今日ではそれが車のラインやソフトドリンクのボトルのかたちに発せられている」
「消費がもはや人類の必要を満たすためのものではなくて、その目的は今やアイデンティティを作りだすことにある」――みなさんはお気づきだろうか。私たちは必要のためではなくて、自分はなにものか、人とどう違うかを表わすためにむやみやたらにモノを買いあさる段階にいるのである。
しかし、「人生を意味あるものにしたいという奥深い欲求をデザイナー・ジーンズで満たすことはできないのだ」
「家族や友人とのつながりも含んだ社会的な関係こそが、一般的に幸福を決定するもっとも重要な要素だということだ」
「人生の満足度にもっとも強い影響をおよぼすものは、意味と目的の感覚である」
「幸福とは欲しいものを手に入れることではなく、すでに持っているものを欲しいと思うことなのだ」
「モノの取得は共同体の意味を見いだすための手段となった。〜社会に認可された商品を買えば、それで帰属意識が購入できるとでもいうように。まわりにいる人々には目もくれず、われわれは共同体感覚をスーパーや服飾店の棚に探し求めた」
われわれはこの「経済成長フェチ」の世の中から抜け出すことができるのだろうか。「お腹はいっぱいなのに、まだ足りない」と思わせることでしか、われわれは生活の糧を得る方法を知らない。ついでに私たちは人より「落ちぶれたくない」。これまでと同じように無意味と感じつつも、ほんのわずかに違う商品をつくりだし、購入しなければならないのだ。
日本は大きな転換点に立ち至っている。大きな舵取りが必要なのである。新たな社会思想や哲学がつくられなければならない時代である。政治が意味ある人生を送れるような社会づくりをめざすべきなのであるが、その前に社会理念や哲学が必要なのである。
▼消費と豊かさを問う本。
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