経済転換期の生き方を考える
                                  1997Autumn〜1999Spring Version






   『さらば! 貧乏経済学 新しい豊かさと幸せを求めて』 日下公人 
               86/9. PHP文庫 420円(古本)


      これはすばらしい本だ。ぜひみなさんに読んでもらいたいが、古本でしか手に入らない。

      のっけから、教会から解放された個人はふたたび国家に隷属するようになったなどと、

     社会の意識のさまがわりがのべられていて、圧巻である。

      もう10年前以上の本だが、貧乏経済学から抜け切れないのは今も同じだ。

      貧乏経済学というのはモノがない時代にいかに金持ちになるかという経済学で、

     こんな発想に凝り固まったままでは、もうつぎの時代は乗り切れない。

      工業化の論理では生産と貯金が増えてゆくだけで、こんなオヤジの発想では

     もう経済や社会を盛りあげてゆくことも、不況から脱出することもできない。

      消費や文化の開発は生産の増強よりもっと人間的な能力が必要になるが、

     オヤジの論理が高圧的になっているこの社会ではまず望むべくもない。

      むかしは怠け者が犯罪視されたが、これからはクソまじめなオヤジが犯罪者だ。

      人々の楽しみや好みを剥奪するオヤジ社会は、工業化の論理とともに棺桶入りだ。




     『これからの10年』 日下公人 PHP研究所 1500円 


         日下公人は発想がひじょうに突飛である。だから常識とかあたり前に

        こだわらないで、おもしろい。この本の中でおもしろかったのは、

        憧れられる生活がこれからの輸出産業にならなければならないといったことや、

        会社に飼われる会社人間が増えすぎたために人間活力が低下したとか、

        もうサラリーマンは多すぎるから、女にモテないといったことが語られている。

         考えてみたらあたり前のことを言っているに過ぎないのだが、

        そのあたり前のぬるま湯につかっている自分たちのほうが悲しい。 




     『悪魔の予言』 日下公人 講談社 1600円


         なんだ、日下公人は恐怖小説を書いたのかというようなブック・デザインだが、

        47のこれからの予言はひじょうに切り口が鋭い。日本人は含み益をあと5年で

        食いつぶすといったことや、目標を失って働かなくなる、半数は年収400万以下に

        なるといった、鋭い指摘がどんどんおこなわれてゆく。

         こういうすぱっとした生き方、考え方もすることができるんだと、

        がちがちになっていた堅実志向の頭を空気抜きしてくれる。

         「目的なき時代の働く意欲」について考えてみました。





     『これからの経済人生学 7つの予言』 川北義則 
                   青春出版社 1100円


         これからの経済激変期にわれわれはどう生きていったらいいのか。

         とうぜん、いままでの生き方や価値観、ステータス、横並び志向を――

        そんなイヤミったらしい生き方を捨てることだ。

         この本の中では、マイホームという幻想から脱け出す、

        安定・計画という生き方の時代は終わった、銀行や保険の神話も崩壊、

        といったこれからの生き方を指し示す予言がいくつもあげられている。

         他人との平等、優越意識を競ったタテマエの時代から、

        自分の好きなもの生き方だけを選ぶホンネの生き方をしようではないか。

         他人がなにを買おうがなにをしようが、ドーデモいいじゃないか。

         私にいったいなんの関係があるというのか。

         自分の価値観、生き方をじっくりと育て直すべきだ。




   『21世紀の企業システム 変われ日本人甦れ企業』 堀紘一
                 87 朝日文庫 530円


      ウレシイことを言ってくれている本である。なぜ企業だけが富み、社員は貧しいのか

     といったことや、優良企業は社員が幸せになる企業だといったことがいわれている。

      おまけに日本的経営の欠陥や弊害、キケンな要素が、ひじょうに具体的に

     サラリーマンの目線で語られているのがいい。

      個人を犠牲にした経済の繁栄と市場性のないエリートの大量生産は、

     成功の復讐を招くだろうという言葉はいま、現実のものになっている。

      経済環境が激変しても、ひとつの会社に長く勤め、その仕事が自分自身の

     アイデンティティになっている人はなかなかほかの職に変われないのが悲劇だ。




   『ビジネスマン人生の損と得/プレジデント98/5 プレジデント社 1000円


      「ビジネスマンに明日はあるか?」という特集が組まれていた。

      予定調和型の生き方がむずかしくなった現在、45才以上は会社にしがみつこうとし、

     35才以下はこれではダメだと割り切り、その中間の人たちの生き方ははっきりしない。

      手厚く年功序列によって保護されてきた人たちはカルチャーショックが大きい。

      含み損を抱えた会社人間は会社にしがみつこうとするが、出向先はラッシュアワー、

     よりどころはもはや家庭にもないし、ローン破産、妻からはリストラ離婚だ。

      危機感をもって前向きに自分を磨くしかないといわれるが、35才以上の転職市場は

     ほぼないに等しいし、自己啓発やスキルを磨く場も見つからない。

      こんな八方ふさがりの状況が出口のない不況をうむ。

      堺屋太一はこれからの社会は、停滞の家康型社会か成長の信長型社会か、

     いままた選択の「関ヶ原」の決戦に立たされているといっている。




   『さらば会社人生/Newsweek日本版4・20』 TBSブリタニカ 400円


      出世の階段を降りる生き方を「ダウン・シフティング」といい、

     90年代に入ってアメリカやヨーロッパでトレンドとなったそうだ。

      とうぜん収入は落ちるが、会社やカネ、モノ、時間に囚われない、

     自由で心豊かな暮らしが送れるかもしれない。

      不況やリストラが盛んになると雑誌は敏感にこういう特集を組むのだろう。

      本流にはならないかもしれないが、今までの価値基準から脱皮する人間が

     今後増えてゆくに違いないとこの雑誌ではいっている。

      もちろんわたしもこれまでに比べて、そういうことを求めるのがまともだと思う。




  竹内靖雄『「日本の終わり 日本型社会主義との訣別 
            日本経済新聞社 98/5. 1600円


     閉塞日本社会の総決算のようなよい本である。

     とくに年金制度や医療保険はもうダメだとあっさりと切ってくれたことはありがたい。

     著者は、福祉国家は家族を無用化するという人々の「意識革命」をなしとげたことが、

    とり返しのつかないことだとみる。

     「国家になんでもかんでも甘えん坊」になった人々の行く末は、

    国家といっしょに沈没するまでみずからの依存体質のなさけなさに気がつかないのだろう。

     この本の著者は自由市場主義者であるようだが、日本型社会主義のかずかずの破綻の

    理由づけにはおおいに肯けるのだが、自由主義者ゆえの説明には感心しない。

     わたしも市場主義にしたほうがいいと思うが、なぜなら決まりきった人生コース、

    生涯を拘束される会社人生や会社至上主義は官僚型社会主義にその原因があるからだと

    思うし、市場主義にもどせば逆に金儲けだけではない価値観も生まれると予想しているからだ。

     個人の自由な生き方や生活までも拘束する日本型社会主義はもう終わるべきだし、

    その前にまず人々はこの国はみんなでいっしょに仲良くの「社会主義」だったことに

    気づかなければならない。そのためにものすごく窮屈で強制的な集団主義(会社主義)が

    人々を覆っていたのである。青年期に感じる将来にわたる重圧感はこれをなくさなければ

    拭い去れない。




     『「次」はこうなる』 堺屋太一 講談社 1600円


         いま、堺屋太一が考えているいちばん新しいことはなにか、と気にかかるから、

        新刊本は気になる。堺屋太一はいま、日本のこれからを指し示す重要なご意見番に

        なっているのではないだろうか。外から見たら同じようなことをまた語っているように

        見えるのだが、じっさい読んでみると何度も共鳴し、納得する。

         世界はいま総資本主義化の時代に、レーガンとサッチャーいらい入ったのだが、

        日本には15年遅れてその波がやってきた。はたして日本は、一般の人たちが

        なんだかものすごく不自由だ、豊かではない、と感じるこの社会の状況を

        一掃できるだろうか。誤りは官僚主導型国家にあるのはあきらかだ。

         そして福祉政策や社会保障も、われわれの自由にクサビをかけていることにも

        気づくことだ。




  堺屋太一『「大変」な時代 常識破壊と大競争 講談社文庫 95/9. 495円


     世界構造と国際秩序の大きく変わる大転換期なのに、日本人にはそれほど大きな変革

    の実感がない。かつての日本は明治維新と太平洋戦争の後の変革では失敗したがゆえに

    世界の流れに沿うことができたが、第一次大戦の後には成功したがゆえに

    世界の変化に鈍感になり、成功体験をくりかえして敗戦という悲劇をむかえた。

     現在も世界的な大競争時代に突入したのにその変貌にまるで無自覚だ。

     勝利のむずかしさは、次の目標を自ら創造することであると堺屋太一はいう。

     ほかに、周囲の目より自分自身の楽しさに自信をもつ「自尊」の精神のススメは

    わたしもまったく同感である。

     この本は刊行当時ベストセラーとなったが、また同じような内容かなと買いそびれて、

    文庫本になってあらためて読んでみたが、やっぱり楽しめる。




     『日本革質』 堺屋太一 PHP文庫 520円


        社会主義崩壊、湾岸戦争後の1991年に書かれた本で、世界情勢が語られている。

        これからの数年間は終戦直後現象とよばれる物資不足や株の値下がりなどが、

       ひきおこされるだろうと予測している。日本の現在の問題点の捉え方がすばらしい。

       世界から尊敬されるのは生産力だけではなく、消費力であり、

       日本はこの段階に足を踏み入れるべきだ。労働奴隷の国のままでは世界の恥だ。




   『貧乏は正しい!』 橋本治 小学館文庫 93/12.


      豊かさという大目標が終ったあとにどのような生き方をすればいいのか、

     そういったことをテーマにしたこのシリーズは期待がもてる。

      一巻しか読んでいないのだが、もうすこし簡潔に話してくれればいいのになと

     ちょっと思います。スルドイ言葉がいくつかあったので、抜書きさせてもらいます。

      「現代若者文化の主流にあるのは、「やたらに広告費を使う貧乏人」なのである」

      「社会主義という「他人のため、人民のため」という思想の中には、「自分の立場

     などというエゴイズムを捨てろ!」という恐ろしい命令だって含まれている」

      「相談したいというのは、「自分とは違う他人に従いたい」という欲求である」




  橋本治『貧乏は正しい! ぼくらの未来計画 小学館文庫 96/5. 552円


     いままでの世の中はどんなものだったのか、なにが起こってきたのか、というわたしの

    興味とぴったりと重なる内容を書いていて、この本はとてもおもしろい。一巻だけを読んで、

    あいだの3巻は飛ばしてしまったが、あまり興味をひかれなかったからだ。それにしても

    この本は世間知らずの学生および社会人が世に出るためのひじょうによい教科書になる。

    80年代に起こったこと、サラリーマンとホワイトカラー、会社、産業革命といったこの世の

    出来事は知っているようで案外知らなかったりするので、ひじょうによい世界の見取り図に

    なる。少し違うんではないかという説明もないわけではないが、これだけ世の中をわかりやすく

    説明しようとするとどうしても捉え方が違ってくるのだろう。労働者や会社、産業革命の

    説明に欠けているところがあると思ったのは消費者の観点の欠落であるようだ。




  オバタカズユキ『何ノ為ニ働クカ』 幻冬舎 98/10. 1200円


    『デューダ』連載中からけっこうこの人に注目してきたのだが、というのはなんといっても

   職業観・会社観といったものが現代の若者にひじょうに近いと思うからだ。

    またわれわれの人生コース上にあり、まったく日常的なことなのにあまり議論も話題にも

   されない「働ク」ということ、「カイシャ」ということに真っ向からとりくんでいる貴重な人だからだ。

    ホント、この社会は信じられないほど「働ク」ということに関して議論がなされない。

    「働ク」ということに関してもっと考えないことには日本人には「豊かな人生」は絶対

   訪れない。そんなことを考えずに時流と社会に合せる生き方のほうが絶対に安全だ、

   というのが圧倒的だと思うのだが、そりゃそうであるが、こんなに勇気がなくなったのは、

   やっぱり豊かな生活を捨てるにはあまりにもメリットがなさ過ぎるということか。

    生まれたときから守りに生きる豊かな世代はおそらく人生も希薄になる。

    その透明さから逃れようとしたとり組みが猿岩石とかドロンズの貧窮旅行なのだろう。




  大前研一『サラリーマン・サバイバル』 小学館 99/1. 1500円


     過去との訣別、これからのビシネス社会で生きてゆく勇気をこの本は与えてくれる。

     けれどもビジネス書の興奮は一日や二日でその効果は薄れ、いつもとまったく変わらない

    毎日の中に埋もれてゆくことになる。やや皮肉な目で見るとビジネス書というのは、

    現実の日常生活からかけ離れた自己啓発の麻薬みたいな気がしないわけではない。

    企業とか日常はまったくウシのように不動で変わらないものだ。わたしは何度も変わる変わる

    と煽るビジネス書の興奮から醒めた経験をもっているので、そう思わずにはいられない。

     ただし、この本はひじょうにおもしろいし、これからの時代とこれからどう生きていったら

    いいかということが明快に示されていて、勉強になることはまちがいなしだ。だけど……。




  渡辺昇一『ハイエク――マルクス主義を殺した哲人 PHP研究所 99/2. 1429円


     うんうん、たしかにハイエクはすばらしい賢者である。人間性と社会の卓越した洞察力は

    人類の知的遺産と呼ぶにふさわしい。ハイエクはたんなる経済学者ではなく、人間性の

    心理についての鋭い観察眼をもっていたから、計画経済や社会主義の危険性を見抜いたの

    だろう。何百万人もの人々の福祉や幸福は、ただ一つの物差しで測れるものではないという

    ハイエクの指摘は、世間のたったひとつの価値基準を押しつけられ勝ちなわれわれにとって、

    とても救いになる言葉だ。経済統制はそのようなただひとつの幸福と価値順位を押しつける

    のである。われわれの日本社会は長らくそのようなたったひとつのモノサシの土壌で

    汚染されてきた。そのような社会で生きる不幸や息苦しさはわれわれ自身がいちばん

    よく身をもって体験しているのではないだろうか。たとえば偏差値や学歴、富や階層などだ。

    社会保障や福祉国家も人間性を破壊する。経済というのはまったく人間そのものである。

    特権や利権、保護や補助が与えられると人間は腐る。まことに腐りやすい。政治では

    票集めの福祉のばらまきがおこなわれているが、これからの後遺症が危惧される。




  田尾雅夫『会社人間はどこへいく――逆風下の日本的経営のなかで
               中公新書 98/7. 660円


     「会社人間」とタイトルがつけば、読まないわけにはいかないが、この本は会社人間の

    肯定できる側面をもちあげようとしていて、かなり不満がのこったし物足りなかった。

    「会社人間」の束縛から脱出する道を提示してくれて、これからの人間らしい生き方を

    指し示してくれれば、もっとおもしろかったと思う。

     とりあえずは「会社人間」を学術的なテーマにとりあげたことはうれしい兆しだ。




     『日本救出 世界11賢人かく語りき』 斎藤彰 集英社 1700円


          サロー、ドラッカー、ハンチントン、フクヤマ、ポール・ケネディ、トフラー、

         カール・セーガン、リースマンといったすさまじい名前がつらなった、

         インタヴュー集である。

          印象にのこった話はトフラーの『第三の波』が発禁された中国で、

         大ベストセラーとなったことや、批判や懐疑が社会を活性化させる、

         何十年か先にはコンピュータより哲学や文学の知識が大事になる、

         といったことなどだ。

          こういう著名人をあつめた本というのは、期待するほどの収穫を

         得られないことが多いが、ひとりの意見をもっと深く聞けないからだろうか。




     『団塊サラリーマンの生き方』 江坂彰 講談社文庫 460円


         この本は江坂彰の著作のなかで、経済や社会の大きな流れを

        捉えているという点で、ひじょうに好きなのだが、もう書店では手に入りにくい。

         企業にはなんのために金儲けをするのかという発想がまるでないといったり、

        人が多すぎるから、細かいどうでもいい仕事をつくりだしすぎた、

        これまでの大工業時代のやり方は会社・ヒトとも通用しない、

        熟年・団塊世代に必要なのは、新人類のミーイズムだといったことが語られている。

         戦後日本の生き方をきれいさっぱり洗い直さなければならないのだ。




     『幸福になる考え方』 田中真澄 PHP文庫 552円


         お金があれば幸福になれるのだろうか、大手企業・官公庁に就職すれば

        幸福になれるのだろうか、安定した生活ができれば幸福になれるのだろうか、

        といった項目がひじょうにいい。

         楽して、苦労しないで、のんびりと生きようとする生き方は、

        一生懸命に生きる生き方より、幸福ではないといった言葉は、

        わたしの怠け心につき刺さる。




     『老人栄えて国亡ぶ』 野末陳平 講談社 1500円


        老人はトクをして、金持ちの悠々自適の生活を送っているのか。

        若い世代には損することがわかりきっている年金制度のうえに、

       あぐらをかいてのさばっているだけなのか。

        一般論ではくくれないが、恵まれた老人に比べて、

       若者はあまりにも損な役回りを背負わされているのではないか。

        1961年から年金制度は発足したそうだが、当時の掛け金はものすごく安かった。

        自由化の流れ、社会主義思想の破算という大きなうねりのなかで、

       政府が国民の生活を保証するという考えは解体してゆくべきではないのか。

        だいいち、若くから子どもの人生を拘束してしまうのはあまりにも地獄だ。




     『ビジネス人生・幸福への処方箋』 安土敏 講談社文庫 495円 


       われわれの幸せ感がなぜ崩壊しているのか、その理由を探ったすばらしい本。

       その原因を「法人優遇社会」や「言語化されない社会・経営」、

      「仕事=際限なき奉仕」などに見出している。

       あまりにも感銘したので、エッセーでもういちど検討してみました。

       「諸悪の根源――法人優遇社会と言語化されない社会」をごらんください。




     『アダム・スミスの失敗 なぜ経済学にはモラルがないのか』 
      ケネス・ラックス
       草思社 2500円


         経済を道徳から考えてみるにはこの本はひじょうにいい。

         こんにちの道徳的崩壊がおこったのは、利己心を称揚し、

        その前提になんの疑問も抱かない経済学がもたらしたのだと著者はいう。

         利己主義の思想がアダム・スミスの真意をいかにゆがめてきたか、

        どのような歴史をへてこの思想は受け入れられてきたのか、語られている。

         この著者の経歴がふるっている。

         精神分析のカウンセラーをしているうち、現代人の悩みや不安のおおくが、

        経済的なものによっていると感じ、経済学を研究するようになったそうだ。

         経済学は、このまま人の心や感情、道徳心を失ったままでいいのか。




     『経済学の終わり 「豊かさ」のあとに来るもの』 飯田経夫
                  PHP新書 657円


        金儲けという狂気がのさばる豊かさを経済学は追求してきたのか。

        著者はアダム・スミス、マルクス、ケインズをいまいちど検討してみる。

        わたしも同じような問題意識をもつと思うのだが、いまいちインパクトがない。

        でもモラルも人間らしさも失わせる「豊かさ」とはいったいなんなのか、

       これからもどんどん追究していってほしいと思う。

        産業化というのはよほどの「変わり者」がよほどの無理を重ねないと

       達成できないという捉え方は、さすがだと思う。




     『社会主義の終焉 マルクス主義と現代』 桜井哲夫
                講談社学術文庫 820円


        現代のわれわれの人生が窮屈で、息苦しいのは、その端緒に

       「社会による救済」という思想があるからではないのか。

        それは理想とは裏腹に個人の人生を拘束し、束縛する。

        この本は社会主義の歴史をサン・シモンからはじまって、

       メシアニズムの崩壊までを説き明かした本である。

        げんざいの国家統制経済は、第一次世界大戦の戦時体制によって

       うみだされたという歴史家エリ・アレヴィの言葉がひじょうに心に残った。

        われわれの経済や人生は、国家戦争のための奉仕道具なのか。




     『商人(あきんど)の知恵袋』 青野豊作 PHP文庫 500円


        むかしの日本の人たちはどのような経済観をもっていたのか、

       探ろうとしたのだが、あまり本がなく、本書の江戸のあきんどに習うしかない。

        ゼロ成長時代の享保の商人たちの商いの古典を紹介した本である。

        商いというのは、人としての基本的な生き方と変わらないように思えたが、

       現在の企業トップ汚職はその基本すらできていないということなのだろうか。

        群集と違う方向に着目しろという「反対思考」は銘記しておきたい。




     『日本資本主義の精神 なぜ一生懸命働くのか』 山本七平
                PHP文庫 520円


        日本人は「輸入品のタテマエ」でなく、「見えざる原則」によって

       動いているという指摘はまったくその通りだと感動したが、

       石田梅岩と鈴木正三の「働くことが仏行」という思想が、

       日本人の勤勉な労働観をうみだしたという説には反発を感じた。

        たんに損得勘定だけが勤勉をうみだしたのであり、

       そんな大げさな大風呂敷きは必要ないとわたしは思うのだが。




     『蜂の寓話 私悪すなわち公益』 バーナード・マンデヴィル
              法政大学出版局 叢書・ウニベルシタス 4120円


        利己心の追求が、社会の繁栄と富をもたらすのか。

        1723年に出版されたこの書によって、マンデヴィルはみごとに

       そのメカニズムを暴いてみせた。

        人間の利己心や虚栄、奢侈が、一国に富をあたえ、

       貧乏人に仕事をあたえるのだ、とマンデヴィルはといいきったのである。

        この本の中では、どんな利他行動も名誉も、あるいは社会の発生も、

       すべて個人の利己心すなわち悪によって成されるものだ、

       とひじょうに鋭い観察眼によって暴いてみせる。

        利己心や奢侈、慈善の本質が、この本にほとんど書かれている。




     『経済思想の巨人たち』 竹内靖雄 新潮選書 1200円


         金儲けや道徳、経済にたいして、むかしの巨人たちはどのように考えてきたのか。

         わたしはまるで経済学なんかわからないし、ちっとも興味もわかないので、

        せめて経済学者の思想のエッセンスだけでも知りたい。

         この本は経済倫理学の竹内靖雄という人が書いているから、最適だ。

         むかしの人は金儲けや道徳についてどのように考えてきたのか、

        働くことや勤勉にたいしてどう思ってきたのだろうか。

         このような経済思想にたいしてまるで空っぽな日本人は、

        もう一度、なんのための金儲けか、共同体の道徳とどう折り合いをつけるのか、

        そういった初歩的なことから考え直さなければならないのではないか。

         官僚や大企業、金融などのモラルとルールなき利益追求をもたらしたのは、

        やはり経済にかんしての哲学がまるでなかったからではないだろうか。




    『日本経済の100年がわかる本』 花井宏尹
             ダイヤモンド社 1400円


       ひじょうにタイムリーな本だ。

       日本経済が大きな転換期に立たされている現在、

      この経済システムの形成過程を知っておくのはひじょうに大事だ。

       とくに図説で示されたかんたんな経済史というのは重宝する。

       明治から政治家と財閥の水車のようなカネ回りが経済を発展させ、

      そのしくみが現在にまでひきつがれていることがわかる。

       明治と戦後の経済政策をみておくことは、なぜ現在のような経済システムに

      なっているのか知る上でひじょうに貴重な資料になる。




     『選択という幻想 市場経済の呪縛 青土社 3400円
     アンドリュー・B・シュムークラー


         高い本だし、買うのにいろいろ迷ったが、市場経済への鋭い疑問を

        投げかけているという点で、ひじょうに感銘するものがあった。

         市場経済ははたしてわれわれが望むところへ連れていってくれるのか、

        市場というのはわれわれの願望をみたす万全な導き手なのか。

         かつての人たちはこんにちのような物質的繁栄にみたされた社会より、

        つつましくも道徳的にみたされた共同体を願ってきたのではないか。

         市場経済への鋭い批判への着目と思索は、感激ものである。

         著者はげんざい、山荘で著作生活をしているそうだが、

        この本はたしかに哲学書っぽい。




   『ゼニの人間学』 青木雄二 ハルキ文庫 95/7. 500円


      ゼニに関するウラの見方は感嘆したり、オモシロかったりするわけだが、

     ばりばりのマルクス主義世界観にはかなりズレたところが感じられる。

      ほんとに日常的なゼニとか商売の話は読んでタメになるが、

     「神はおらへん」とか「労働者は資本家に搾取されてんや」と

     コテコテの大阪弁で大マジメにやられたら、「なんじゃ、これ?」と思ってしまう。

      ゼニと人間という身近な視点はとてもおもしろいんだけれどね……。




  今村仁司『近代の労働観』 岩波新書 98/10. 640円


     やってくれました、今村仁司と思わず喜びました。

     労働があまりにも突出してしまった現代の労働中心社会というのはあまりにも異常だ。

     人生や生活より労働が大事で、人生のすべてを剥奪してしまう労働社会は、

    あまりにも本末転倒で狂気に満ちている。

     ほんらいの人生や喜びが抹殺されるまで労働が覆うこの現代社会とはいったい何なのか。

     17世紀西洋以降では「無為怠惰」が闘いの相手となり、貧民や浮浪者、あるいは

    反逆者や犯罪者を救済・収容するために人格矯正の手段として労働が強制された。

     近代は国家や産業がその必要から人々を労働人間へと矯正・規格化していったわけだ。

     そして現代の労働観は、人から褒められたり、認められたりする虚栄心という、

    パスカルがいう頭のなかの虚構を充足させることが真実の人生の満足と思っている。

     虚栄心が――着飾ったり、豪邸に住んだりする外面的なものとちがって、

    上司や世間に認められるという自己満足が、労働中心社会の支柱を支えている。

     世界を圧倒した近代産業社会というのは虚栄心の肥大化が推進力だったのだ。

     われわれはこのまま労働の狂気――つまり虚栄心の狂気に押し流されるまま、

    この人生や社会を突っ走ってゆくだけでよいのだろうか……?




   『「良い仕事」の思想 新しい仕事倫理のために』 杉村芳実
                 中公新書 97/10. 700円


      勤勉が家庭や余暇と衝突するようになり、経済拡張主義も限界である現在、

     われわれは仕事にどんな意味を見出せばいいのだろうか。

      この本では過去の良い仕事の思想が探られてゆくわけだが、

     ヘシオドスとか中世教会の考え方は現代ではあまりにも現実感がない。

      近代以降の良い仕事の思想に関する記述は、読書案内としては

     興味の魅かれるものが多くあったが、耳の遠くに響くだけだった。

      仕事にポジティヴな意味なんか見つけられるのかと疑問だし、

     ポジティヴになればこんどは会社に食い尽くされるだけだし、

     そう考えたら人生の大半を占める仕事の時間を楽しめなくなってしまうし……。




   『良い上司 悪い上司 生き残る管理職の条件』 江坂彰 PHP文庫 
                      95/12. 514円

      江坂彰はもう何冊も読んだからか、この本にはあまり目新しいことがなかった。

      かつて新人類とよばれ、「内ゲバを企業内でやり出す」といわれた団塊世代は、

     まえの世代より会社人間化し、既得権にしがみついて若者を犠牲にしている。

      新しいことが行われず、日本経済を凋落に導くだろうといっている。




   『「弱い」日本の「強がる」男たち お役所社会の精神分析』 宮本政於
                93/10. 講談社+α文庫 780円


      残業という日本的甘えの社会や集団のなかの自己犠牲、マズヒズム、

     といった日本の組織集団にすべて共通する性質をさらけだした本である。

      なぜ日本の組織はいつもみんなといっしょで、自己犠牲とマゾヒズムを宣伝する、

     こんなおぞましい、強制的な集団になってしまったのだろうか。

      母性的関係から自立できない日本の男は、個が確立せずに組織と妻に依存し、

     個人や女性が独立してしまうとその精神的安定が乱されてしまうから、

     一糸乱れずの集団主義の一体感の防波堤の中に踏みとどまろうとするのである。

      甘えから抜け出るには、自分の弱さを知り、自己主張という強さの練習をすることだ、

     そのための分析がなされているのがこの本だ。




  堀紘一『成功する頭の使い方 スーパー洞察力のすすめ PHP文庫 96/7. 495円


     地価が三分の一、物価が三割、円が一ドル220円まで下がる、

    失業率は2倍の7%になる、考えることのススメなど、まあそれなりに楽しいし、

    おもしろい本だが、それ以上の感銘は得られない。

     「あらゆる学問や人生は、何が問題であるかを考えることだ」――これは名言だ。




     『リスクの裏にチャンスあり! 大抜擢時代をどう生き抜くか
     竹村健一・堀紘一
    95/2.   PHP文庫 419円


         2時間でホントに読めてしまう本だが、内容はわくわくするものがある。

         「もうすぐユニークな人間が大爆発する」、「多くの人が殺到する情報から、

        豊かな収穫は得にくい」、「情報を読みとり、作品型の情報を自分の力で

        つくりあげる能力はとくに重要となる」、「日本人はどうして自分の本心を抑えて、

        他人と同じような行動をするのか」といったメッセージは、学ぶところがある。







     97年以前に読んだビジネス書 「経済や社会はこれからどうなってゆくのか」

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