'98 SPRING どんな本に関心があるか      経済と道徳―経済思想史―社会規範


                                           (98/3/15更新 新着順)



   『日本人と「日本病」について』 岸田秀×山本七平 文春文庫 420円


      日本の社会規範とはどのようなものだろうか。

      日本人はそれを言葉にしないため、空気のような無意識に拘束されて、

     暴走してしまうから、それを言葉にしなければならないと山本七平はいい、

     岸田秀は神経症患者は無意識を意識化しなければならないという。

      日本人は規範を語らないため、どうやら神経症患者で治療の対象のようだ。

      比較文化的な視点で山本七平が語り、精神分析で岸田秀が解釈するという

     絶妙な対話集になっている。

      それにしても日本人はキレイ事と西洋論理というタテマエでものを言うから、

     裏のルール、不文律というホンネがどんどん混乱してゆく。

      差別であろうが非難であろうが危険であろうが、ちゃんと真実を話してくれないと、

     ますます口で言っていることと行動が違うようになる。

      社会が制御できないばかりか、制御できないムードや空気に振り回されることになる。

      制御するためには規範をはっきりと言語化し、明確にすることだ。

      言葉のタブーは人間を動物レベルにまで落としてしまうのではないだろうか。





   『「市民」とは誰か 戦後民主主義を問いなおす』 佐伯啓思 PHP新書 657円


      佐伯啓思という人はスルドイ人だと思う。

      政治があまりわからないわたしはこの本で勉強させてもらおうと思った。

      フランス革命は民衆の反乱ではなく、行政的権力の集中の完成だったという解釈は、

     歴史は解釈に過ぎないから出てくると思っていたが、感銘した。
      (これは200年も前からいわれていることであって、わたしが知らなかっただけ)

      ヨーロッパ近代政治は中世社会の土台のうえに築かれたから、

     日本社会にはなかなかなじまない。

      近代的市民の理念より歴史の積み重なりの精神のほうが大事だといっている。





   『近代の拘束、日本の宿命』 福田和也 文春文庫 533円


      『なぜ日本人はかくも幼稚になったのか』という本が気になっていたから、

     とりあえず文庫本で出ている本を読んでみた。

      近代化のなかの日本人のアイデンティティというものを考えているようだ。

      残念ながらわたしにはそのような問題意識はほとんどなく、

     いろいろ国際情勢や近代について学べたが、そんなふうに考えているのかでおしまい。





   『寂しい国の殺人』 村上龍 シングルカット社 1800円 

     『寂しい国の殺人』 村上龍 シングルカット社 


      「近代化が終わったのにだれもそれをアナウンスしないし、個人的な価値観の創出も

     始まっていない、だから誰もが混乱し、目標を失って寂しい人間が増えている」

      ――こういう村上龍の発言は、もろ手をあげて賛成する。

      近代化が終わったのにマスコミもサラリーマンもおじさんもだれもそれを告げない。

      しがみつくものがなにもないから、だれもが終焉した近代化の目標にしがみつく。

      早く大人たちはそのことを認めて、個人的な価値観を創出することだ、

     システムを変えることで個人が変わる時代は終わった――、

     というのが村上龍のメッセージだ。

      この本は近代化の総決算という意味でとても重要なメッセージを告げている。

      「これから日本をどうするのか」なんてことは問わない、

     個人的な価値観の時代にはそんな問いは不毛だからだ。

      あるイタリア人はいった。「近代化が終わったことはすばらしいことだ、おめでとう」

      村上龍のいっていることはほんとうに重要なことであり、

     日本人のだれもがこのことの重要性に気づかなければならないと思うのだが……。


      村上龍の話を聞くといつもつまらない会社とつまらない人生について考えたくなる。

      ということで「「会社」という日本人のただひとつのよりどころ」。





   『「空気」の研究』 山本七平 文春文庫 381円

      『「空気」の研究』 山本七平 文春文庫 


      われわれはいたるところで、その場の「空気」というものに支配されている。

      「あの場の空気ではこう言うしかなかった」とか「あの空気では反対できなかった」とか。

      その無意識に拘束する空気というものにだれもが「水」を差せずに、

     ときには負けるとわかっている戦争に導くこともある。

      日本人は自分たちを拘束している規律や道徳を言葉にできないから、

     わけのわからない空気に支配されて、とんでもない暴徒と化してしまう。

      だから空気――無意識にわれわれを拘束する規律を知らなければならないのである。

      規範を無意識にしているかぎり、われわれはこの空気から逃れられないだろう。

      山本七平の問題意識はひじょうに重要だと思うのだが、

     この本はちょっと難しかったり、当時の時事問題が多かったりしてわかりづらい。

      だけどわけのわからない空気にわれわれは支配されているのだ――、

     それを暴かなければならないという問題意識はだれもがもつべきだ。




    『<対話>のない社会 思いやりと優しさが圧殺するもの』 中島義道
                 PHP新書 657円


       なぜわれわれは対話や批判精神を失ってしまったのだろうか。

       この本では発言しない学生、お上の氾濫する無意味な標語、

      思いやりと優しさが対話を奪っていることなどが指摘されている。

       ほんとうの規範が口にされない社会、批判精神のない無力な中流階級、

      こういった状況ができあがったのは、「対立」や「もめ事」を避けようとする

      「優しさ」や「思いやり」という権力作用が浸透したせいなのだろうか。

       だけどそのために会社と学校という監獄がわれわれを窒息させている。

       なぜこの社会は裏の規範が語られず、言葉や批判がタブーとなってしまったのか、

      「見えない規範、見えない言葉のタブー」で考えています。





    『日本経済の100年がわかる本』 花井宏尹
             ダイヤモンド社 1400円


       ひじょうにタイムリーな本だ。

       日本経済が大きな転換期に立たされている現在、

      この経済システムの形成過程を知っておくのはひじょうに大事だ。

       とくに図説で示されたかんたんな経済史というのは重宝する。

       明治から政治家と財閥の水車のようなカネ回りが経済を発展させ、

      そのしくみが現在にまでひきつがれていることがわかる。

       明治と戦後の経済政策をみておくことは、なぜ現在のような経済システムに

      なっているのか知る上でひじょうに貴重な資料になる。
      



    『労働基準法を考える』 不破哲三 新日本新書 860円


       ひどい話だ。

       この国では労働者の無権利状態が当たり前のようにまかり通っているし、

      たいがいの人はそれに疑問を抱かないか、唯々諾々と従っている。

       残業時間にしても三六協定を結べば、無限にでも残業できるようになっている。

       現代の日本の労働条件は、今世紀初頭のオランダの労働状況どまりだという。

       こんな異常な状況が、労働基準法や国際社会との比較から垣間見えてくる。

       日本の企業社会が変わるのは労働基準法の改正だけですむのか、

      それとも日本という過酷な田舎社会に住む日本人の意識変革からなのか。




     『「日本株式会社」の昭和史 官僚支配の構造
     小林英夫ほかNHK取材班
 創元社 1800円

       『「日本株式会社」の昭和史』 小林英夫ほか 創元社


       げんざいの官僚統制の経済システムの源流を

      満州の経済計画にもとめた本で、NHKのETV特集を単行本化したものである。

       「日本株式会社」誕生のさまをまざまざと見せつけられるのは恐ろしい。

       この日本型経済システムは戦争遂行の単一目的のためにうみだされたのだ。

       戦後には断続があるが、基本的なシステムは存続しつづけた。

       この国家は戦争時の心理特性をそのままもちつづけてきたといえる。




     『ビジネス人生・幸福への処方箋』 安土敏 講談社文庫 495円 

      『ビジネス人生・幸福への処方箋』 安土敏 講談社文庫 


       われわれの幸せ感がなぜ崩壊しているのか、その理由を探ったすばらしい本。

       その原因を「法人優遇社会」や「言語化されない社会・経営」、

      「仕事=際限なき奉仕」などに見出している。

       あまりにも感銘したので、エッセーでもういちど検討してみました。

       「諸悪の根源――法人優遇社会と言語化されない社会」をごらんください。




     『寄生獣』 岩明均 講談社アフタヌーンKC 全10巻 各500円前後

        『寄生獣―完全版 (1)』 岩明均 講談社アフタヌーンKCDX  


        哲学者の鶴見俊輔の絶賛と、神戸の殺人事件とも関連があるので読んでみた。

        絵はあまりうまくないのだが、つぎからつぎへと読みたくなるマンガだ。

        人間に寄生し脳をのっとり、人間を食べる寄生獣と、右手に寄生したために、

       寄生獣と共生しなければならなくなった主人公の人間のはなしだ。

        人間の顔が自由に変形する気色悪いさまや、次々に現れる寄生獣との闘い、

       寄生獣の頭脳が発展してゆく経過は、ひじょうに読ませる。

        パラサイトに名を借りているが、人間という生命の目的はなんなのか、

       地球という生態系にとって人間という種はなんなのか、などが考えられている。

        「おもちゃ(人間)は簡単にぶっ壊れる」といった言葉がいくどか出てくるが、

       少年はこの感覚をなまなましい現実に置き換えてしまったのだろうか。




     『経済学の終わり 「豊かさ」のあとに来るもの』 飯田経夫
                  PHP新書 657円


        金儲けという狂気がのさばる豊かさを経済学は追求してきたのか。

        著者はアダム・スミス、マルクス、ケインズをいまいちど検討してみる。

        わたしも同じような問題意識をもつと思うのだが、いまいちインパクトがない。

        でもモラルも人間らしさも失わせる「豊かさ」とはいったいなんなのか、

       これからもどんどん追究していってほしいと思う。

        産業化というのはよほどの「変わり者」がよほどの無理を重ねないと

       達成できないという捉え方は、さすがだと思う。




     『入門経済思想史・世俗の思想家たち』 ロバート・L・ハイルブローナー
                  HBJ出版局 2500円(古本)

        『世俗の思想家たち』 ハイルブローナー ちくま学芸文庫 


        ケネス・ラックスが良著としてこの本をあげていたので読んでみた。

        経済学者がどのような時代に生き、どんな問題を考えなければならなかったのか、

       わかりやすく、おもしろく述べられていて、教科書になるのはよくわかる。

        それぞれの経済学者の伝記がおもしろくて、とくにサン・シモンの冒険的人生、

       イカれた空想家のフーリエ、35歳まで定職のなかったヴェブレン、

       などのエピソードが破格に笑えた。

        社会的背景と経済学者の思想のつながりがよくわかる本である。




     『社会主義の終焉 マルクス主義と現代』 桜井哲夫
                講談社学術文庫 820円


        現代のわれわれの人生が窮屈で、息苦しいのは、その端緒に

       「社会による救済」という思想があるからではないのか。

        それは理想とは裏腹に個人の人生を拘束し、束縛する。

        この本は社会主義の歴史をサン・シモンからはじまって、

       メシアニズムの崩壊までを説き明かした本である。

        げんざいの国家統制経済は、第一次世界大戦の戦時体制によって

       うみだされたという歴史家エリ・アレヴィの言葉がひじょうに心に残った。

        われわれの経済や人生は、国家戦争のための奉仕道具なのか。




     『経済思想 市場社会の変容』 間宮陽介
            日本放送出版協会 放送大学教材 1650円


        経済思想の本が少ないということで、教科書的な本に頼らざるをえない。

        でもよく整理されていて、経済学の歴史はどのようなものかよくわかった。

        ヴェブレンとポラニーあたりは興味はもてても、

       やはり正統的な数学を利用した経済学はまるでちんぷんかんぷんだ。




     『商人(あきんど)の知恵袋』 青野豊作 PHP文庫 500円


        むかしの日本の人たちはどのような経済観をもっていたのか、

       探ろうとしたのだが、あまり本がなく、本書の江戸のあきんどに習うしかない。

        ゼロ成長時代の享保の商人たちの商いの古典を紹介した本である。

        商いというのは、人としての基本的な生き方と変わらないように思えたが、

       現在の企業トップ汚職はその基本すらできていないということなのだろうか。

        群集と違う方向に着目しろという「反対思考」は銘記しておきたい。




     『金融腐蝕列島』 高杉良 角川文庫 上下各571円


         いったい銀行とか総会屋、大蔵省の癒着とはどのようなものか、

        もうすこしリアルに知りたくなって、この小説を読んだ。

         またこれらの関係の犯罪や事件が起こったら、

        この小説のエピソードのイメージがぐっと身近なものになるだろう。

         銀行の内情については『はみ出し銀行マン・シリーズ』のほうがオモシロイ?




     『日本資本主義の精神 なぜ一生懸命働くのか』 山本七平
                PHP文庫 520円

        『日本資本主義の精神』 山本七平 PHP文庫 


        日本人は「輸入品のタテマエ」でなく、「見えざる原則」によって

       動いているという指摘はまったくその通りだと感動したが、

       石田梅岩と鈴木正三の「働くことが仏行」という思想が、

       日本人の勤勉な労働観をうみだしたという説には反発を感じた。

        たんに損得勘定だけが勤勉をうみだしたのであり、

       そんな大げさな大風呂敷きは必要ないとわたしは思うのだが。




     『アダム・スミス 自由主義とは何か』 水田洋
            講談社学術文庫 760円


        アダム・スミスの生涯がわかる本。

        アダム・スミスはけっして利己心を肯定したわけではないが、

       結果的には経済的繁栄をみちびく思想に貢献した。

        かれの人生になにがあったのだろうか。




     『蜂の寓話 私悪すなわち公益』 バーナード・マンデヴィル
              法政大学出版局 叢書・ウニベルシタス 4120円

        『蜂の寓話』 マンデヴィル 法政大学出版局 


        利己心の追求が、社会の繁栄と富をもたらすのか。

        1723年に出版されたこの書によって、マンデヴィルはみごとに

       そのメカニズムを暴いてみせた。

        人間の利己心や虚栄、奢侈が、一国に富をあたえ、

       貧乏人に仕事をあたえるのだ、とマンデヴィルはといいきったのである。

        この本の中では、どんな利他行動も名誉も、あるいは社会の発生も、

       すべて個人の利己心すなわち悪によって成されるものだ、

       とひじょうに鋭い観察眼によって暴いてみせる。

        利己心や奢侈、慈善の本質が、この本にほとんど書かれている。




     『世界名作の経済倫理学』 竹内靖雄 PHP新書 680円


        経済倫理学というジャンルに興味をもったので読んだが、

       「経済倫理学」という名を冠すことはなかったと思うのだが、

       世界名作の解説と教訓はなかなかおもしろかった。

        経済について考えるなら、『あるセールスマンの死』とか『怒りのぶどう』、

       『タバコ・ロード』とか『さようなら、コロンバス』をとりあげてほしかった。





     『リスクの裏にチャンスあり! 大抜擢時代をどう生き抜くか
     竹村健一・堀紘一
    95/2.   PHP文庫 419円


         2時間でホントに読めてしまう本だが、内容はわくわくするものがある。

         「もうすぐユニークな人間が大爆発する」、「多くの人が殺到する情報から、

        豊かな収穫は得にくい」、「情報を読みとり、作品型の情報を自分の力で

        つくりあげる能力はとくに重要となる」、「日本人はどうして自分の本心を抑えて、

        他人と同じような行動をするのか」といったメッセージは、学ぶところがある。





     『アダム・スミスの失敗 なぜ経済学にはモラルがないのか
      ケネス・ラックス
       草思社 2500円   

       『アダム・スミスの失敗』 ラックス 草思社  


         経済を道徳から考えてみるにはこの本はひじょうにいい。

         こんにちの道徳的崩壊がおこったのは、利己心を称揚し、

        その前提になんの疑問も抱かない経済学がもたらしたのだと著者はいう。

         利己主義の思想がアダム・スミスの真意をいかにゆがめてきたか、

        どのような歴史をへてこの思想は受け入れられてきたのか、語られている。

         この著者の経歴がふるっている。

         精神分析のカウンセラーをしているうち、現代人の悩みや不安のおおくが、

        経済的なものによっていると感じ、経済学を研究するようになったそうだ。

         経済学は、このまま人の心や感情、道徳心を失ったままでいいのか。




     『経済思想の巨人たち』 竹内靖雄 新潮選書 1200円

         『経済思想の巨人たち』 竹内靖雄 新潮選書 


         金儲けや道徳、経済にたいして、むかしの巨人たちはどのように考えてきたのか。

         わたしはまるで経済学なんかわからないし、ちっとも興味もわかないので、

        せめて経済学者の思想のエッセンスだけでも知りたい。

         この本は経済倫理学の竹内靖雄という人が書いているから、最適だ。

         むかしの人は金儲けや道徳についてどのように考えてきたのか、

        働くことや勤勉にたいしてどう思ってきたのだろうか。

         このような経済思想にたいしてまるで空っぽな日本人は、

        もう一度、なんのための金儲けか、共同体の道徳とどう折り合いをつけるのか、

        そういった初歩的なことから考え直さなければならないのではないか。

         官僚や大企業、金融などのモラルとルールなき利益追求をもたらしたのは、

        やはり経済にかんしての哲学がまるでなかったからではないだろうか。




     『自由主義の再検討』 藤原保信 岩波新書 630円


         教科書的な本で、興味も印象ものこらなかった。

         わたしがあまり興味のない政治をおおく語っているからかもしれない。




     『選択という幻想 市場経済の呪縛 青土社 3400円
     アンドリュー・B・シュムークラー

         『選択という幻想』 シュムークラー 青土社 


         高い本だし、買うのにいろいろ迷ったが、市場経済への鋭い疑問を

        投げかけているという点で、ひじょうに感銘するものがあった。

         市場経済ははたしてわれわれが望むところへ連れていってくれるのか、

        市場というのはわれわれの願望をみたす万全な導き手なのか。

         かつての人たちはこんにちのような物質的繁栄にみたされた社会より、

        つつましくも道徳的にみたされた共同体を願ってきたのではないか。

         市場経済への鋭い批判への着目と思索は、感激ものである。

         著者はげんざい、山荘で著作生活をしているそうだが、

        この本はたしかに哲学書っぽい。




     『経済史の理論』 J・R・ヒックス 講談社学術文庫 940円


         市場の勃興という興味のひかれる歴史をとりあつかった本だが、

        わたしの知りたいことと興味が重ならなかったからかおもしろくなかった。

         奴隷と自由労働市場の労働者はどうちがうのか、

        「労働市場」をとりあつかった章から考えさせられた。




     『ゆきあたりばったり文学談義』 森毅 ハルキ文庫 480円


         「中沢新一のいまの芸風ではもうやっていけない」とかいった項目が

        おもしろそうだし、昭和の人気作家や思想家たちに興味をひかれて読んだ。

         あいかわらず、この森毅という人はあっさり価値観を蹴り払ってくれる。

         この人の前では、どんな重要な価値観もなんともない、どーでもないことなので、

        目からうろこが落ちて、それがおもしろい。




     『所有の歴史』 ジャック・アタリ 法政大学出版局 5974円


         所有というのはヘンなものである。

         モノは自分と別個の物体なのに、それでも人はそれを「自分」とみなす。

         モノは自分の地位や立場をあらわす象徴や看板になり、

        ときには自分のことより多く心配したり、かかわったりして大事にする。

         この本は、そのヘンな所有の歴史を語っているということで、

        とりあえず参考にさせてもらおうと思ったが、正直なところ、

        あまりにも膨大な先史時代からさかのぼる所有の歴史は、

        寄り道が多すぎるように感じられ、なんのためにこんな記述をするのか、

        意図がよく読みこめなかった。

         「所有の背後には死の恐怖が潜んでいる」という説はもっともだと思うが、

        このことをいうのに短い哲学書で間に合ったと思うのだが。

         そのテーマと個々の所有の歴史の記述がほどよくブレンドされれば、

        よいハーモニーを醸し出したかもしれないが、とりあえずわたしは、

        商業と所有の歴史からなにかを学びとりたいと思う。

         正月から読みとおすのにだいぶ時間がかかった。







       ついでに「97秋冬に読んだ本」を読む。(官僚統制、経済の未来など)

            「98夏に読んだ本」はこちら。(日本の正体、民主主義など)

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