いま、どんな本に関心があるか

       1997 WINTER-AUTUMN COLLECTION
      アジア―経済の未来―官僚統制―社会論etc.



          最近読んだ本を紹介します。
          わたしが最近、どんなテーマに関心があり、
          どのような疑問に興味をもっているのか、察していただければさいわいです。
          ジャンルはべつに分けません。
          時期がきたら、カテゴリー分けのジャンルに入れるつもりです。




   『ASIA ROAD』 小林紀晴 講談社 1800円

        


      書店に並んでいる『ASIAN JAPANESE』などの写真集はひじょうにインパクトがある。

      この本はアジアの人たちや風景の写真と旅の文章でなりたっている。

      いま、わたしはアジアの人々のいき方や価値観になんとなく興味がある。

      近代文明が完全に浸透していない社会のひとびとは、

     どのような価値観や生活観で生きているのか、知りたいからだ。

      東南アジアやインドの人たちの生き方は、

     物質文明のあとのわれわれの生き方を、指し示してくれるだろうか。




    『時代の気分・世代の気分<私がえり>の時代に サントリー不易流行研究所
                 NHKブックス 870円

        

       それぞれの世代がどのような現実を生きてきたか、

      ということがのべられていて、ひじょうに興味をひかれる本である。

       わたしは昭和40年代前半生まれの「堅実・安定志向世代」のなかで育ち、

      昭和10年代の「勤勉実直世代」の親たちに育てられた。

       30代の「ワンランクアップ消費世代」の生き方に強い影響をうけて、

      20代前半の「体験なきデジタル世代」にはさまれている。

       わたしは同世代の「堅実志向」をわからなくはないが、おもしろ味がないと思うし、

      「勤勉世代」の親のような自分が空っぽの生き方もしたくないと思う。

       だから、「団塊世代」の友達親子という関係があるのかと意外だった。




    『歴史の鉄則』 渡辺昇一 PHP文庫 486円

         


       累進課税が金持ちの意欲を削ぎ、国家を衰退させるのだと説いた本。

       自由主義のハイエクの思想が紹介されているのがいい。

       金持ちになる自由も、ルンペンになる自由もなければならない。

       政府のする仕事は自由を保障することであって、仕事を計画してやることではない。

       自由が窒息しそうなこの国で、この思想はひじょうに重要である。

       経済を国家が把握するということは、経済の自由を束縛するだけでなく、

     人間そのものの自由の侵害に至るのだ。






     『12万円で世界を歩く』 下川裕治 朝日文庫 720円

         

        12万円で海外旅行を断行したおもしろい本。

        わたしも行けるかもしれない、行きたいという気分にさせる。

        アジアやイスラムの人たちの顔や暮らしがひじょうにインパクトにのこる。

        12万円でこれらの世界に触れることができるのだ。




     『日本とは何か』 堺屋太一 講談社文庫 540円

         

        いま、堺屋太一のなにを読んでもおもしろいので、

       安い文庫本で手に入るのなら、なおさら読みたくなる。

        歴史をさかのぼった日本論にはあまり興味はなかったのだが、

       堺屋太一ということでこの本を読んだ。

        このなかの「日本的勤勉とソフトウェア」という章にひじょうに興味をひかれて、

       一作エッセーを書いたし、供給者保護の官僚主導体制にひじょうに問題を感じた。

        エッセー「勤勉と享楽と経済的繁栄」




     『日本革質』 堺屋太一 PHP文庫 520円

          日本革質―社会の質を変えねば繁栄はない

        社会主義崩壊、湾岸戦争後の1991年に書かれた本で、

       世界情勢が語られている。

        これからの数年間は終戦直後現象とよばれる物資不足や株の値下がりなどが、

       ひきおこされるだろうと予測している。

        日本の現在の問題点の捉え方がすばらしい。

        世界から尊敬されるのは生産力だけではなく、消費力であり、

       日本はこの段階に足を踏み入れるべきだ。

        さもないと金持ちのパトロンのいない世界は不況に落ち込んでしまうだろう。




     『恋愛と贅沢と資本主義』 ヴェルナー・ゾンバルト
                論創社 3090円

          講談社学術文庫


        いぜんからずっと読みたかったのだが、やっと古本屋で手に入れることができた。

        資本主義はやっぱり贅沢と奢侈が生み出したのだと納得させてくれる。

        とくに成り金などの新興階級が、宮廷やジェントルマン階級に入ろうとしたことが、

       大きな原動力になったことがよくうかがわれる。

        上流階級への上昇志向が資本主義の原動力になり、

       そして現代日本の一流大学、一流企業志向もそういうことではないだろうか。

        ただこういう上流階級というのはすでにもうそんな大金持ちではなく、

       権威とか伝統でその地位をたもつというのが、ふしぎである。

        骨董的価値がその権威の元なのか。




     『これからの10年』 日下公人 PHP研究所 1500円 

           


         日下公人は発想がひじょうに突飛である。

         だから常識とかあたり前にこだわらないで、おもしろい。

         この本の中でおもしろかったのは、

        憧れられる生活がこれからの輸出産業にならなければならないといったことや、

        会社に飼われる会社人間が増えすぎたために人間活力が低下したとか、

        もうサラリーマンは多すぎるから、女にモテないといったことが語られている。

         考えてみたらあたり前のことを言っているに過ぎないのだが、

        そのあたり前のぬるま湯につかっている自分たちのほうが悲しい。 




     『悪魔の予言』 日下公人 講談社 1600円

           


         なんだ、日下公人は恐怖小説を書いたのかというようなブック・デザインだが、

        47のこれからの予言はひじょうに切り口が鋭い。

         日本人は含み益をあと5年で食いつぶすといったことや、

        目標を失って働かなくなる、半数は年収400万以下になるといった、

        鋭い指摘がどんどんおこなわれてゆく。

         こういうすぱっとした生き方、考え方もすることができるんだと、

        がちがちになっていた堅実志向の頭を空気抜きしてくれる。

         「目的なき時代の働く意欲」について考えてみました。




     『「次」はこうなる』 堺屋太一 講談社 1600円

           


         いま、堺屋太一が考えているいちばん新しいことはなにか、

        と気にかかるから、新刊本は気になる。

         堺屋太一はいま、日本のこれからを指し示す、

        重要なご意見番になっているのではないだろうか。

         外から見たら同じようなことをまた語っているように見えるのだが、

        じっさい読んでみると何度も共鳴し、納得する。

         世界はいま総資本主義化の時代に、レーガンとサッチャーいらい入ったのだが、

        日本には15年遅れてその波がやってきた。

         はたして日本は、一般の人たちがなんだかものすごく不自由だ、豊かではない、

        と感じるこの社会の状況を一掃できるだろうか。

         誤りは官僚主導型国家にあるのはあきらかだ。

         そして福祉政策や社会保障も、

        われわれの自由にクサビをかけていることにも気づくことだ。




     『これからの経済人生学 7つの予言』 川北義則 
                   青春出版社 1100円

            


        これからの経済激変期にわれわれはどう生きていったらいいのか。

         とうぜん、いままでの生き方や価値観、ステータス、横並び志向を――

        そんなイヤミったらしい生き方を捨てることだ。

         この本の中では、マイホームという幻想から脱け出す、

        安定・計画という生き方の時代は終わった、銀行や保険の神話も崩壊、

        といったこれからの生き方を指し示す予言がいくつもあげられている。

         他人との平等、優越意識を競ったタテマエの時代から、

        自分の好きなもの生き方だけを選ぶホンネの生き方をしようではないか。

         他人がなにを買おうがなにをしようが、ドーデモいいじゃないか。

         私にいったいなんの関係があるというのか。

         自分の価値観、生き方をじっくりと育て直すべきだ。





     『日本救出 世界11賢人かく語りき』 斎藤彰 集英社 1700円

            

          サロー、ドラッカー、ハンチントン、フクヤマ、ポール・ケネディ、トフラー、

         カール・セーガン、リースマンといったすさまじい名前がつらなった、

         インタヴュー集である。

          印象にのこった話はトフラーの『第三の波』が発禁された中国で、

         大ベストセラーとなったことや、批判や懐疑が社会を活性化させる、

         何十年か先にはコンピュータより哲学や文学の知識が大事になる、

         といったことなどだ。

          こういう著名人をあつめた本というのは、期待するほどの収穫を

         得られないことが多いが、ひとりの意見をもっと深く聞けないからだろうか。






     『団塊サラリーマンの生き方』 江坂彰 講談社文庫 460円

          団塊サラリーマンの生き方

         この本は江坂彰の著作のなかで、経済や社会の大きな流れを

        捉えているという点で、ひじょうに好きなのだが、もう書店では手に入りにくい。

         企業にはなんのために金儲けをするのかという発想がまるでないといったり、

        人が多すぎるから、細かいどうでもいい仕事をつくりだしすぎた、

        これまでの大工業時代のやり方は会社・ヒトとも通用しない、

        熟年・団塊世代に必要なのは、新人類のミーイズムだといったことが語られている。

         戦後日本の生き方をきれいさっぱり洗い直さなければならないのだ。




     『幸福になる考え方』 田中真澄 PHP文庫 552円

          

         お金があれば幸福になれるのだろうか、

        大手企業・官公庁に就職すれば幸福になれるのだろうか、

        安定した生活ができれば幸福になれるのだろうか、といった項目がひじょうにいい。

         楽して、苦労しないで、のんびりと生きようとする生き方は、

        一生懸命に生きる生き方より、幸福ではないといった言葉は、

        わたしの怠け心につき刺さる。




     『天使の王国 平成の精神史的起源』 浅羽道明
                      幻冬舎 533円

          

        ひさしぶりに社会論の本を読んだので、とてもおもしろかった。

        とくに前世の世界を信じる少女たちの章は圧巻だった。

        「現代思想はいかに消費されたか」という項目が興味をひかれた。





     『老人栄えて国亡ぶ』 野末陳平 講談社 1500円

          


        老人はトクをして、金持ちの悠々自適の生活を送っているのか。

        若い世代には損することがわかりきっている年金制度のうえに、

       あぐらをかいてのさばっているだけなのか。

        一般論ではくくれないが、恵まれた老人に比べて、

       若者はあまりにも損な役回りを背負わされているのではないか。

        1961年から年金制度は発足したそうだが、当時の掛け金はものすごく安かった。

        自由化の流れ、社会主義思想の破算という大きなうねりのなかで、

       政府が国民の生活を保証するという考えは解体してゆくべきではないのか。

        だいいち、若くから子どもの人生を拘束してしまうのはあまりにも地獄だ。




    『誰が国賊か 今、「エリートの罪」を裁くとき』 谷沢永一 渡辺昇一
                クレスト選書 1600円

          

        日常の生活を生きるいっぱんのわれわれの

       自由や生き方を苦しめているのは、じつはこの国の官僚なのか。

        ふだんの生活だけに生きているわたしにとって、官僚や政治家などどーでもいいが、

       もしわたしの自由や生き方を束縛しているとなったら、話はべつだ。

        官僚たちが遠くからわれわれの首をじわじわと絞めつづけているのか。

        この本では、官僚の問題点、この国は国家社会主義だった、

       ということなどがひじょうに鋭くのべられている。

        いっぱんの人たちの自由を奪いとっているのは、

       官僚とか政策とかの、われわれとまったく無関係の世界なのか。





     『日本を殺す気か!国を壊死させる官僚の論理』 井沢元彦
                 祥伝社 NON BOOK 850円

          

        国を滅亡に導いた戦前の官僚エリートたちの愚行と集団の性質を描いた本。

        官僚の世界ではおかしなことに失敗したものが出世するということや、

       ペーパーテストに受かった受験エリートたちは新しい問題をとけない、

       といったことが語られてゆく。

        戦前の愚かな性質が、現在にもそっくりひきつがれている官僚の組織が、

       これからの日本を壊滅状態へと手招きするのだろうか。




     『官僚たちの大国 規制撤廃と第三の開国を』 フランク・ギブニー
                     講談社 1800円

          

         官僚統制という問題を、さまざまな人たちが、

        さまざまな立場・利益、視点から語っているのがいい。

         堺屋太一、リチャード・クー、中谷巌、榊原英資、宮本政於といった人などだ。

         官僚問題の諸悪の根源はなんなのか、

        そしてその変革を押しとどめているのはなんなのか。

         もっとかんたんな、わかりやすい図式が、わたしには必要だ。




     『官制破産 日本を食い潰す官僚支配の構図』 財部誠一
                     徳間書店 1600円

          

         官僚はわれわれの生活にどれほど影響力をもっているのか、

        その一点がわかれば、官僚という問題の比重が変わってくるだろう。

         この本の中では官僚の愚政やカネの使いホーダイといった実態が、

        あぶり出されている。

         ジェファーソンがいった年金にあてはまる言葉がひじょうに心に残る。

         「子孫が支払うという借金は、大がかりな詐欺と同じだ」




     『もう騙されないぞ!』 大前研一 青春出版社 1400円

          

         政治・官僚の失政・問題点がつぎつぎとあげられている。

         わたしはどちらかといえば、自分の日常の生活にひっかかってこない事柄は、

        自分のことのように重要には感じられないので、問題にしない傾向をもっている。

         だが、この国の政策はかなりハチャメチャのようだ。

         ここまできた、腐った社会・経済・政治の世界を、この本でじっくりとながめてください。




      『入門日本の経済改革』 佐藤光 PHP新書 690円

            

          この本はそれまでの不況の原因の通説に反論を加えているということで、

         ひじょうに反発を感じることが多かったが、

         そのおかげで、自分が感情的に、あるいは自分の立場や利益から、

         この不況を捉えているのだと自覚させてくれた。

          キリスト教からエゴイズムだけをとりだした日本のモラル・ハザード――

         (社会的規律の弛緩)にこれまでの問題の多くがあるのだ、

         とこの本は教えてくれた。

          日本社会の崩壊について考えた「戦後日本社会の危機」へ。





      『改革とは何か――どのような社会をめざすのか』 正村公宏
                    ちくま新書 660円

            

          言葉的には読みにくい面がわたしにはあったが、

         ひじょうに正論をのべているように思えた。

          「なしくずしの福祉化」や「企業まるかかえ」が企業中心社会を助長した、

         省庁が株式会社化していることなど鋭い指摘がなされている。

          自分の能力と機会は、所得と地位だけに使うようになったげんざいの風潮に、

         社会はつづいてゆくはずがないといった言葉は、ひじょうに心に迫る。

          めざすべき社会の大きな姿が描かれなかったのが残念だ。




       『日本の反省「豊かさ」は終わったか』 飯田経夫
                      PHP新書 680円

           

          経済学は社会哲学でなければならないといった著者は、

         「成熟化社会の行方」や「豊かさ」とはなんなのかとずっと追究しているようだ。

          「もういいや」と切実に感じているわれわれは、

         「先進国病のハードル」を越えられず、経済困窮の道へと転がり落ちてゆくのか。

          会社がわれわれの人生をすべて強奪してしまうのなら、

         そっちのほうがよほどましかもしれない。





      『アメリカ人から見た日本人』 ジョエル・シルバースティン
                    GOMA BOOKS 800円

           アメリカ人から見た日本人―いつまで“大人”になれないのか

          日本はいたるところ、子どもばかりだという批判は、ひじょうにこころよい。

          なぜこんなに子どもばかりになり、そしてそれを疑問に思っている自分さえ、

         子ども社会のなかに呑みこまれている現実を見なければならない。

          いったいどこからこの拘束をつき崩せるのだろうか。

          日本はやはり、みんなでイターイ目に遭わなければ、

         このウソっぱち「勤勉ゴッコ」をやめられないのだろう。




      『知の編集工学』 松岡正剛 朝日新聞社 2200円

           

          編集というものは、ものすごく大事だと思う。

          ものごとや知識、商品、産業などを魅力的にするのは編集作業によるものだ。

          商品を魅力的にするのは編集能力であり、雑誌もそうであり、

         百貨店やスーパーもそうだし、貿易や商業においてもその一点にかかっているし、

         われわれの思考だって、編集能力だともいえるのだ。

          われわれの社会や文明の根幹にかかわる編集という作業を、

         この本から学びとることができるかもしれない。




      『むなしさの心理学』 諸富祥彦 講談社現代新書 640円

            

          現代の「むなしさの時代」をひじょうに的確に捉えている。

          もとめればもとめるほど手に入れられない「幸福のパラドックス」に、

         現代人はとらえられている。

          意味をもとめるフランクル心理学と、トランスパーソナル心理学に

         その克服法をもとめているのが、早い。




     ご意見お待ちしております。    ues@leo.interq.or.jp



     「98春に読んだ本」は経済思想、社会規範などの本です。

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