■041011書評集
『海と列島の中世』 網野善彦
講談社学術文庫 1992 1150e
島国というのは「陸の孤島」ではなくて、海に面しているからこそ広大な交通路が結ばれていた。だから寒村や孤島とよばれたところのほうが繁栄していたり、先進文化やゆたかな財産をもっていたと考えられることもある。
鉄道の発達により陸の交通にしか目を向けなくなっているが、海や河川こそが明治以前の交通の大動脈だったわけである。そう見なしてみると、能登や若狭、全国の津々浦々の繁栄や栄華が見えてくる。この本はそういう見直しを迫った本である。
『日本史小百科<交通>』 荒井秀規・櫻井邦夫他編
東京堂出版 2001 2900e
海の交通がどのようなものだったか知りたくてこの本を読んだ。海の交通から町の発達や繁栄が見えてくると思ったからである。
全国の河川や港・津にさまざまな船が行き交い、モノが行き交い、そして人が行き交った。海や川は交通の大動脈であり、富や財宝、文化や繁栄をもたらした。交通路の要衝に市が立ち、人があつまり、町ができてゆく。
日本の各町の発展や繁栄の理由を考えると、やはり交通路――とくに水運によるものが大きいと思わざるをえないのである。自分の住む町や地域の発展の理由や要素がこれによって見えてくるというわけである。
『海の道、川の道』 斉藤善之
山川出版社 日本史リブレット 2003 800e
海運史・港湾史といったものはまだまだ注目されていないようである。ここから町の発展や文化の発達、富の蓄積が見えてくると思うのだが、地理学があまり注目されないように人気がないのだろう。
この小冊子では内海浦、河野浦、兵庫津、石巻湊、小堀河岸といった海運の要衝が歩かれている。鉄道が敷かれて海や河川の道はすっかり衰退していって、今は全国のどこにも往時の繁栄のすがたはない。だからこそ海や川が船でにぎわった時代や風景というものに焦がれてしまう。
それにしてもこの小冊子は薄い割には高い。
『日本「歴史地名」総覧』 歴史読本特別増刊事典シリーズ
新人物往来社 1994 1800e(古本)
自分の住む町に歴史の由緒がありそうな地名があったりすると、どうしてそのような名がついたのか知りたくなるものである。地名は歴史の手がかりを残していてくれる。
この雑誌はそのような歴史地名の読む事典である。自然地名や渡来人ののこした地名、豪族・部族の地名、鉱物・鍛冶に関係のある地名、信仰に関わる地名などが紹介されている。
このような知識をすこしでも頭に入れておくと、地名由来をちょっとは推測できるようになるかもしれない。
『平野は語る』 日下雅義
大巧社 1998 1200e
地形の変化と人間の歴史のかかわりをのべた本で、たいへん興味がひかれる本になっている。
古代史をのぞいてみたら、現在の地形と変わっていることが多い。大阪平野はほとんどが海が入り込んでいたり、淡水湖になったりして、げんざいはすべて陸になっている。河川や海岸線も大きく変貌している。
歴史を知ろうとすることは地形の変化を探ることでもある。過去の地形がげんざいと大きく違っていたことを知ることは歴史を知ることの醍醐味でもある。
『海に生きる人びと』 宮本常一
未来社 日本民衆史3 1964 2000e
宮本常一がやろうとしたことは個人や天下人の歴史を描くのではなくて、集団や地域の歴史を描こうとしたのではないかと思う。
集団や地域を把握することは文献の多い天下人とちがって、文献も少ないし、それも散らばっているし、空間的にもかなり隔たっており、ひたすらたいへんな作業だったと思うのである。よくこんな集団や地域をひとくくりにした歴史が描けたものだと感嘆するのである。地域が主役の全国史をつかみとるなんてそうだれもができるものではない。
この本では海人の活動が地域や地名を主役に通史として語られていて、よくこんな作業ができたものだと思う。日本人の歴史の教科書はこの宮本常一の民衆史にすべきである。
海人というのは船があればべつに陸に定住する必要はないのだからなかなか定住しなかったようである。現在のわれわれとは発想がまったく違っていたのを知った。定住は塩焼きや田畑の耕作からようやくはじまったようである。
海人は魚が取れない季節や海が荒れる冬などの漁閑期には船で行商をしたりして、しだいに海運をになってゆくようになる。漁神のエビス神が商業の神になってゆく経緯と対応しているといえる。海人は菱垣廻船や北前船などの繁栄とともにたいそう富を蓄積したことだろう。
交通の主役が船から鉄道に変わったとき、かれらは商人として陸に上ったのだろうか、それとも漁師に帰っていったのだろうか。漁船が海運の役目を失い、漁業だけの船になったとき、各地の港も漁業だけの港に帰っていったのである。
『いくつもの日本V 人とモノと道と』 原田信男ほか
岩波書店 2003 3000e
列島の交通や交流をのべた本である。水上交通という面から日本列島をながめれば、はるか遠くの地域が古くからつながっていたり、陸での障壁をものともせずに交流や物流が発達していたと思われるのである。
この本では津軽海峡や対馬、能登、瀬戸内海、琵琶湖、南西諸島、などの交流・流通がのべられていて、列島の人々は古くから活発に結びついていたことがわかる。海は障壁ではなく、人やモノを運ぶ道であったのである。
『日本の地名』 別冊歴史読本
新人物往来社 2003 1800e
この地名の雑誌は項目別に整理されていてずいぶんすっきりと見られるようになっている。
「古代政府の地名政策」、「職人の存在を示す地名」、「古代氏族名に関する地名の分布」、「地形から生まれた地名」などテーマ別に説明されている。
『関西 小さな町小さな旅』 歩く旅シリーズ町歩き
山と渓谷社 2004 1400e
関西の古い町歴史ある街を紹介したガイドブックである。写真が大きくきれいである。そしてたぶん実物より魅力的である。
かなり個人的な意見だが、歴史ある町というのはやっぱりふつうのどことも変わらない住宅地に多く囲まれていたりする。ここで興味が削がれる。写真の歴史的情緒のある一角というのは町のわずかであるばあいが多く、写真はその一部をクローズアップするから魅力的に見えるだけであって、実体を見るとなかなか魅力的には見えない。
私は山登りは魅力的だと思うし、山あいに囲まれた山村の風景というのはとても味があって好きだが、町めぐりや古い町並みめぐりというのはあまり好きにはなれないのかもしれない。町の観光ってやっぱり好きになれない。ほかの人といっしょに烏合の衆になるのはいやなのである。
『関西 自然史ハイキング』 地学団体研究会大阪支部編
創元社 1998 1500e
地域や土地の歴史を知ろうとすれば、やはり地形や河川の歴史も気になってくるものである。この本では関西の各地の地形や地質がどのようなものなのか、現地を訪れるためのガイドブックになっており、なかなか興味津々の本なのだが、ちょっと地学の予備知識がないとかなりわかりにくい本かもしれない。大阪駅が地盤沈下していたり、大和川の県境あたりが土砂崩れが多いなど意外なことがわかる。
『大地のおいたち』 地学団体研究会大阪支部編
築地書館 1999 1600e
関西の地層や地質、大地の変動などを紹介した本だが、私の手には負えない。まあ、関西の地学についていろいろ学べる本である。
『古代史の秘密を握る人たち』 関裕二
PHP新書 2001 533e
関西の山登りをしているうちに古代と関わりのある神社や地名と出会うことが多くなり、いつの間にか古代史を知りたいという気持ちになってきた。この本は格好の本であり、古代史に惹きつけるにはもってこいの本だった。おもしろい。
この本のポイントは独裁権力をもとめる天皇家と、合議制を死守しようとする蘇我氏や物部氏、出雲の対立で古代史を読み解くというもので、この読み方はたいへんにおもしろい。
『日本書紀』が描こうとした天皇家の正統性と、ほかの豪族との緊迫したやりとりがひじょうに興味をひかれる。おもしろいを連呼したい本である。
『古代史を解く九つの謎』 『古代史の真相』 黒岩重吾
PHP文庫 1999/1993 533e/486e(古本)
ひじょうにあいまいな印象ではっきりとはいいきれないが、なんとなく黒岩重吾の古代史はあまりおもしろくはなかった。私は古代史初心者だから謙虚に学びたい、知りたい部分はたいへんに多いのだが、なにか歯切れが悪いからか強い思いはのこらなかった。あくまでもぼんやりとした印象にしか過ぎませんが。
『卑弥呼はふたりいた』 関裕二
ワニ文庫KKベストセラーズ 1993 590e
この関裕二という人は推理や推論の立て方がおもしろいのだろう。つぎつぎと納得させる論を立ててゆき、その読み解き方がスリリングで魅力的なのだろう。
私は古代史は正確さより、楽しさが勝るほうをとる。堅苦しくてつまらなさそうな学術書より、ちょっとトンデモ本に近い本のほうを選びたい。事実より想像力の楽しさのほうをいまは味わいたい。
この本の卑弥呼がふたりいたというのは、東の勢力に押されて衰退しかかっていた北九州の卑弥呼は魏と親交をむすび、対抗策として畿内のヤマトは神巧皇后を立てたということである。
でもまあ、卑弥呼の話をもういいやという感がする。
『崇神天皇とヤマトタケル』 神一行
学研M文庫 1994 540e
三朝交替の説はなかなか興味をひかれる。葛城王朝、三輪王朝、近江王朝と地域の勢力がぶつかりあう緊迫感がおもしろいと思うのだ。地域の勢力は経済や武力、交通の力などの結集を競ったのであり、天皇や個人名が歴史を動かしたと見るような歴史よりよほど真実をあらわしていると思う。いくら権力者といえどもひとりで歴史を動かすことなどできないのだ。この本は神社から歴史を読み解いた点でも好ましいと思う。
『古代出雲王国の謎』 武光徹
PHP文庫 1996 533e
出雲は古代の国家生成にどのような役割をはたしたのだろうか。興味ひかれるところだ。しかしこの本は電車内で読んでいたためほかのことに気を削がれたりしてあまり頭に入らなかった。
『古代七大王国の謎』 中江克己
学研M文庫 1995 600e
古代には各地域に大きな勢力や強い勢力がいくつもあったと思われる。そのような勢力や王国を知らずして国家統一の道は見えてこないだろう。
日向王国、筑紫王国、吉備王国、出雲王国、越王国、津軽王国、オホーツク王国などのそれぞれの勢力が各地域で権勢をふるっていたことだろう。それは経済や文化や物流の競い合いでもあったはずである。そのような地域の歴史が垣間見れることは楽しいことである。
▼本の画像は
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