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■030511書評集
 批判か肯定か


▼2003/5/11




 『ホントの話』 呉智英
 小学館文庫 2001 533e

 人権や民主主義、愛など現代の絶対的な正義、理想と思われているものを疑っているのがいい。時代の正義や理想をアタマから信じるのは放漫な暴虐を生じやすく、警戒が必要である。




 『反日的日本人の思想』 谷沢永一
 PHP文庫 1996 800e(古本)

 日本を批判した知識人を売国奴とか国賊だとか罵るのは極端すぎると思うけど、たしかに日本を貶め、蔑み、見下すことが知識人の仕事だと思われているのは問題である。言論界のこういう姿勢・態度は反省されなければならない。

 ここに批判される「進歩的文化人」とよばれる12人のほとんどは知らなく、ちょっと時代が古いのではないかと思う。私が名前を聞くのは丸山真男と鶴見俊輔、大塚久雄、大江健三郎、加藤周一くらいだ。まあ、共産主義を正義と思い、日本を批判してきた人らしい。

 日本の言論界はいつも西欧と比較しての日本の後進性を批判しているが、これはあくまでも進歩や向上をめざしてのことだが、一面では悪口や罵倒、蔑視をすることだけが正義と思い、全人格になってしまっている人もじつに多い。われわれは人生の幸福や品格という点で、この害悪からは逃れるべきなのかもしれない。世を呪い、人を怨む人生がすばらしいわけがない!




 『人間通でなければ生きられない』 谷沢永一 
 PHP文庫 1981 400e(古本)

 批判や悪口、欠点を指摘し、アンチを唱えるのはだれでもできることで、それが日本の知識人や言論界の仕事と思われたり、優越感や選民意識が満足させられたり、怨みつらみが発散させられたりするのはよいことではない。

 とくにアタマからこれを信じてしまう読者は世を呪い、人を怨むようになり、人生は不幸と悲惨につき落とされてしまう。知識の正誤より、人生の幸福や満足を客観的にみられるほうが重要ではないのかと思う。批判やアンチは人生の肯定と愛を破壊してしまうものだ。

 谷沢永一はそういう知識人の否定と肯定の態度を客観的に見られる人であり、だから批判的知識ばかり摂取してきた私としてはたいへんに重要な知恵を与えてくれる。心理学のポジティヴ・ネガティヴ思考のような枠組みが社会観にも必要だと思うのである。

 この本では批判や罵倒に傾いてきた知識人のなかでも日本を肯定的に捉えた人たち――大宅壮一、梅棹忠夫、司馬遼太郎、高橋亀吉、山本七平がとりあげられている。

 肯定や称賛が行き過ぎて放漫さや暴虐にまで走ってしまうのはキケンであるが、罵倒や蔑視のみもおおいに誤った姿勢である。人生は肯定も否定もせず、ただ受け入れることが大切なのではないかと思う。社会を否定することは自己も幸福も破壊することである。




 『正体見たり社会主義』 谷沢永一
 PHP文庫 1994 590e(古本)

 社会主義というのは知識人の大きな実験場であり、そこに知識の欠点や欠陥、弊害がたくさんつまっているのではないかと思う。人間が知性のみで社会全体を律せれると慢心するとき、惨劇が起こる。社会主義というのは知識の悲劇ではないのか。




 『教養論』 鷲田小彌太
 PHP文庫 1994 552e(古本)

 知識というものにこだわっているから読んだけど、この鷲田小彌太という人の著作からはなんの感銘も感動もうけない。ただ百科事典みたいにキーワードがならんでいるだけ。いっぱい出ている著作はだれがありがたがって読むのだろう? 一般教養書に徹しているのだろうけど、それなら鋭い知識の楽しみがない。




 『愛はテロリズム』 マイケル・ヴィンセント・ミラー
 紀伊國屋書店 1995 2300e(古本)

 ロマンティック・ラブなんて一時の感情に過ぎないのに一生の結婚をどうやって継続できるのだろうと思っていた。ロマンティック・ラブは幻滅に終わり、離婚と虐待の時代がアメリカにやってきた。家庭は権力争いの修羅場と化すばかりである。

 ロマンティック・ラブ・イデオロギーは現在の拷問になっていないだろうか。愛がないから離婚する、愛した人をつなぎとめておくために虐待する、愛がないから失敗した人間だ。新しい親密性の関係がもとめられているということだ。




 『女は男のどこを見ているか』 岩月謙司
 ちくま新書 2002 720e(古本)

 売れているようなので読んでみたが、ほかの解釈がいくらでもできることを強引にひとつの論に進めてゆくのにはちょっとアヤうさを感じた。想像力だけで書かれたような本の気がする。実証性がほとんどない。論理的説得力も弱い。いぜん、テレビで赤ちゃんに帰るようなセラピーをやっていたのでヤバイ人かもと思ったが、これからこの人はどこに行こうとしているのだろうか。




 『この思想家のどこを読むのか』 加地伸行 小浜逸郎 佐伯啓思 西部邁ほか
 洋泉社新書 2001 790e(古本)

 福沢諭吉、柳田国男、西田幾多郎、吉田茂など近代の思想家を読んだ本である。知識批判のテーマから読んだだけで、感銘はのこらなかった。




 『タレント文化人100人斬り』 佐高信
 現代教養文庫 1998 640e(古本)

 佐高信は数少ない企業批判者としては偉いと思うが、もう最近は人の悪口や批判しかいえないエゲツない人にしか見えなくなってきた。批判が正義というより、悪口ばかりいう人格が問題に思えてきた。アクマみたいな顔に見えるし。人間関係はちゃんと結べるのかと心配する。文章もヘタであまり愛着がわくものではないし。人の悪口をいうのが商売だとしても幸せなのかなと思う。




 『平成日本を「超」ダメにする44人の知識人・文化人』 長崎誠
 元就出版社 1996 1400e(古本)

 知識の欠点や弊害はこれらの知識人や文化人に現われ出るものだろうか。学者がテレビに出たり、正義面したり、政治家になったり、金儲けに走ったり。批判される知識人のなかに普遍的な知識の欠点はあるのだろうか。




 『元気の出る読書術』 ハイブロー武蔵
 王様文庫 三笠書房 2003 476e

 チョー前向きな読書論の本である。「読書する人は成功する」「読書する人は顔つきが違う」。おいおい、ほんとうかい? そこまで楽観的でいいのかいと思ってしまうけど、読書好きとしてはまあまあうれしい。自己啓発のような本である。




 『思想史の相貌』 西部邁
 世界文化社 1991 1400e(古本)

 さいきん私は保守思想にひかれてきたのだが、というのは経済計画主義やルソー主義・マルクス主義の疑問、または批判ばかりする知識の疑問から保守に学びたいと思うようになったのだが、まだまだ伝統や慣習、国を愛することについてはかなり疑問が多い。ということで近代日本の思想家を語った西部邁のこの本を手にとった。まだまだ。




 『他人をけなす人、ほめる人』 フランチェスコ・アルベローニ
 草思社 1994 1600e(古本)

 かなりのベストセラーとなったみたいだが、なぜイタリアの社会学者の本がこんなに売れたのだろうか。いろいろな人の欠点や長所が語られているが、ただそれだけの本じゃないかと思う。『エロティシズム』という前著があったからかな。私が読んだのは知識の批判と肯定について考えたかったからである。「けなす人、ほめる人」




 『「名著」の解読学』 谷沢永一 中川八洋
 徳間書店 1998 1600e(古本)

 中川八洋の『正当の哲学 異端の思想』(徳間書店)は人権、平等、民主という正義のことばを批判した衝撃的な本だった。保守主義と中川八洋は半分懐疑をもちながら気になる存在になった。

 この本では「興国の書 亡国の書」というまたたいそうな名を冠した書評がおこなわれている。丸山真男とルソーがけなされ、『武士道』『蜂の寓話』ハイエク『隷従への道』バーク『フランス革命の省察』がほめられている。




 『飛鳥の謎』 邦光史郎
 祥伝社ノンポシェット 1991 514e(古本)

 なぜ明日香のような田舎に都がおかれたのだろうか。鉱物資源にめぐまれた工業地帯だったということである。それにしても私は歴史上の人物がどーこーしたという話がまるで興味をもてない。普遍的な人間観ばかりに興味が向かうが、よいことなのか、よくないことなのか。むかしの権力者がどのようなことをしたなどと探ることは意味や価値のあることなんだろうかと思う。それを否定したら歴史が虚空に消えてしまう?




 『歴史街道を行く 京都・大阪・奈良……』
 昭文社 2002 1400e

 ハイキングで関西の山々をめぐっているうち歴史の遺跡とめぐりあうことも多くなって歴史への興味をさぐってみようかなと思うようになった。でも歴史上の建造物や遺跡を見ることの意味のなさ、空虚さはついつい感じてしまうので、このガイドブックがどれだけ活用されるかはわからない。後追い的なあの場所は歴史のあるところだったんだと知識を追加する楽しみで終わるのかな。歴史はどうやって楽しむのだろう?





 『「ひとり暮らし」の女たち』 バクシーシ山下
 太田出版 2003 1400e

 お泊りルポ。AVからの派生本であるが、AVでは行為だけがとりあげられるが、この本では出会いから会話、行為へのプロセスが写真つきでとりあげられていて、このリアリティがよいのである。行為だけではあまりに商売的すぎるようになったのだろう。この本はひとり暮らし女性(AV女優)の生態や考え方を捉えた社会学的な本とも好意的にはいえるが、ただのエロ心から読んだ本である。




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ホントの話―誰も語らなかった現代社会学 全十八講






『反日的日本人の思想』 谷沢永一 PHP文庫













『人間通でなければ生きられない』 谷沢永一 PHP文庫



















正体見たり社会主義―「正義」の仮面と「理想」の嘘



教養論―大人の知性教えます




愛はテロリズム―ロマンティック・ラブの終焉









女は男のどこを見ているか


この思想家のどこを読むのか―福沢諭吉から丸山真男まで





タレント文化人100人斬り





平成日本を「超」ダメにする44人の知識人・文化人




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思想史の相貌






他人をほめる人、けなす人





「名著」の解読学―興国の書・亡国の書







飛鳥の謎







『歴史街道を行く―京都・大阪...』 旅の森






お泊りルポ「ひとり暮らし」の女たち



   
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