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 ■021201書評集
 おもしろい小説を探してます


▼2002/12/1




 『クヌルプ』 ヘルマン・ヘッセ
 新潮文庫 1915 180e/古本

 漂泊の人の話だからいちど読んでみたかった。流浪の身でありながら会う友だちはかれを歓待し、食べ物と宿をあたえる。はたして友だちにたかりにくるような漂泊者が、いくら無邪気な喜びや楽しみをもたらすからといって、みんな気前よくかれを迎えるだろうかと心配に思えるあらすじだった。

 最期は神におまえのような人間も必要だとなぐさめられるのだが、かなり危ういように感じられた。漂泊の思いを満たしてくれる本ではなかったな。




 『自由の地を求めて』 ケン・フォレット
 新潮文庫 1995 上巻629e 下巻667e/古本

 『自由の地を求めて』というタイトルがいい。スコットランドの炭坑町の奴隷の身分からのがれて、ロンドンでの荷役夫のストライキ、そして新大陸ヴァージニアのタバコ農園と、物語は1760年代後半の産業革命前夜に展開される。最後まで読まないと気がすまないおもしろい小説だった。主人公はいったいどうなるのかという小説の楽しさをひさびさに味わわせてくれた本である。また奴隷のように生きなければならなかった人たちの見聞や勇気をあたえてくれた。




 『たのしく読めるイギリス文学』 中村邦生他編著
 ミネルヴァ書房 1994 2800e/古本

 イギリス文学のあらすじ、読み方、作家の履歴などを紹介した本で、タイトルは知っていても内容まで知らない作品の中身を知ることができたり、テーマや読み方を知ることができる本である。作品選びのよいガイドブックになる。




 『ありきたりの狂気の物語』 チャールズ・ブコウスキー
 新潮文庫 1967 743e/古本

 ブコウスキーは労働にたいする批判が気に入ったのだが、二冊目となるともういいやという気持ちにもなってくる。
 ブコウスキーの鋭い言葉を引用。

 「うんざりだ。胸糞悪くしている元凶は、家族の絆という病にほかならない。そこには結婚や相互扶助というやつも含まれる。そいつは爛れや伝染病と変わらない。隣人、隣近所、町、市、郡、州、国……まで覆ってしまった」

 「ここは自由の国だぜ、おれは……」
 「自由の国じゃないよ。なにもかもが売り買いされて誰かの物になっているんだ」

 「なにごとも勝つのは難しく、負けるのは易しいということだ。偉大なアメリカの負け犬になるのは、それはそれでかっこいい。だが、誰にでもできる。じっさい、ほとんど誰もが負け犬なのである」




 『日本の近代小説』 中村光夫
 岩波新書 1954 650e/古本

 ちょっと古臭くておもしろいものではなかった。




 『マーフィー こうすれば人生はもっと楽しくなる』 植西聰
 成美文庫 2000 530e/古本

 「友達が増えれば増えるほど、人生が豊かになる」という本である。私はこれまで孤独の楽しみと自由をもとめてきたのだが、人間関係の豊かさにも目を向けるべきだとたしかに思う。人とのつきあいがヘタになってゆくことはツラくて生きにくいことである。人間関係に幸福の源泉をみいだせたのなら、人生はもっとリラックスして楽しめるものとなると思う。




 『映画で読むアメリカ』 長坂寿久
 朝日文庫 1995 720e/古本

 こういう映画からアメリカ社会を読むという本はとてもいいものである。映画だけからはうかがいしれないアメリカ社会の姿を知ることできるからだ。映画というのはやっぱり社会の姿を如実にあらわしている。時代とまったく無関係にある映画がつくられるというわけではないのだ。中年の主人公やシングル・パパ、離婚家庭、行儀のいい若者などが映画によく出てくるのはそれがいまのアメリカの姿だからである。




 『ジョイ・ラック・クラブ』 エィミ・タン
 角川文庫 1989 640e/古本

 中国系アメリカ人二世の書いた本だから、もっと中国からの波瀾万丈の人生を読めるのかなと思っていたら、どちらかという日常のちまちましたことが主題になっており、私の期待にはそなわない本だった。




 『輝ける碧き空の下で 第一部』 北杜夫
 新潮文庫 1982 上巻400e下巻480e/古本

 なぜかブラジル移民の話は心魅かれてきた。島国に閉じこもりがちな日本人がかつてはフロンティアをもとめて海外移住をこころみたことがあるとはとても信じられないからだ。かれらはどのような思いで海をわたり、どのような生活を送ってきたのか、知りたいと思ってきた。小説というかたちでリアリティをもって追体験できるとはとてもありがたいことである。

 さいしょの移民は奴隷のような身分を味わい、賃金も聞いていた額よりはるかに少なく、逃げ出すものもあらわれ、都会に出て働く人も出てきたりする。日本人のみで植民地を切り開いてもマラリアで死者が続出、バッタの大群に農作物を食われたりして、そうとうの辛酸をなめる。話としていちばんおもしろかったのは流れに流れて峠をこえてボリビアでゴム採集人になる人の話である。ゴムの景気もてつだって儲かるのだが、孤独な原始林での生活のため賭博や女に溺れることになる。

 そういった南米でのフロンティアたちの人生がさまざまに語られるとても興味ある小説である。現代の日本人は会社に勤めるサラリーマンになるしか道はなくなったが、ひとむかしまえの日本人は海外にのりこみ、自分の土地をもつという壮大な夢をもつことができたのである。それはもちろん貧しい自分たちの国土を見限らなければならないほどの困窮があったという事情もみのがすわけにはゆかないが。

 私としては働くことの苦しみをしみじみと味わっているいま、こういった開拓民の苦しみを知ることはすくなからず私の励ましと勇気になったと思う。生きるために働いてお金を得ることはラクなことではない。ブラジル移民の苦しみにくらべれば、夢はないかもしれないが、私のつらさはたかがしれたものというものだ。





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