■企業は搾取するという考え方。 2006/5/21
『インビジブルハート―恋におちた経済学者』 ラッセル・ロバーツ
日本評論社 2001 1600e
こういう本を読むのは珍しいかもしれない。つまり企業や経済活動を、悪や搾取と見る捉え方を訂正している点である。
ビジネスや企業は貪欲で冷酷で、人を容赦なく切り捨て、労働者を搾取するものだとわれわれの多くはとらえているのではないだろうか。どうもそういう見解はハリウッド映画やディケンズの小説などから得られたみたいである。もちろんマルクスーエンゲルスの経済観もあるだろう。つまり社会主義や福祉主義が資本主義を悪者に仕立てた。
ぎゃくにこの本で主張されていることはビジネスのほうこそが善良な奉仕を求められるということである。人がイメージするビジネスは客をカモにしたり、搾取したりするものであったりするが、そんなことをしていればいずれ客を大量に失う。
ビジネスは私利私欲と競争のために顧客に満足や利便をもたらす。それは愛情や慈愛、慈善から発する心よりもっとよい結果を相手に届ける。悪いサービスを届ければ、市場からはそっぽを向かれるからだ。人間の道徳というのは私利私欲から発するほうがよい効果をもたらすようである。それが利他行為の本質だからかもしれない。市場はこの力を利用するのである。
ぎゃくに正義のために規制や保護がおこなわれると、労働者の賃金低下や雇用機会の減少、たまは物価の増加にはねかえってしまう。良いことをするためにはだれかが費用を支払わなければならない。無料のランチやコストなし・犠牲なしの善行などないのである。それはだれが負担を負うことになるのか。けっきょくその救おうとした人たちにコストを押しつけられるのである。また政府は人びとの自発的な寄付や、個人の責任としての善行を奪ってしまう。どうも慈善や慈愛は政府の代行によっておこなわれるべきものではないようである。
この本は自由主義者の経済学者と政府は市民を守るべきだと考える文学者の女性教師との議論を中心とした小説である。自由主義か、福祉主義のどちらがいいのか、論争しあった本というのは意外に見当たらないので、この本は価値あるものだった。この関係を図式的に理解する必要があると思った。
いまは政府の規制や慈善の失敗を目の当たりにしている時代である。そして国家による社会主義の崩壊も経験した。市場の力にまかせつつ、政府によるものではない、民間による福祉が必要になってくる時代ではないのだろうかと思う。もう政府の時代ではないのである。
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