■これは人生の事典である。 2005/4/24
『人生相談「ニッポン人の悩み」』 池田知加
光文社新書 2005 720e
かなりおもしろい。悩み相談の変遷のなかに見事に日本社会のありようを浮き彫りにすることに成功している。悩み相談は日本社会の鏡でもある。
人生相談のなかに私も自分と同じ境遇を見出したり、状況を解説するキーワードを発見したりしたものである。ただ回答者の価値観の押しつけはよく反発したものだが。
この本ではおもに女性の家庭や離婚の悩み、男性の仕事観の変遷、学校の意味の変化などがとりあげられていて、その移り変わりの鮮明さにたいそう感心した。主婦の忍耐から離婚をすすめる価値観への変化、余暇志向と求職難の時代のフリーターやニートの状況、そして人間完成のために学校に行くという考え方から勉強がよい将来に結びつくとは考えられない現在への変遷など、人生相談が現代社会学の教科書のようになっている。
個人のナマの悩みの声だからこそ、社会の変遷はリアルさをともなって読者の心に響いてくる。悩み相談とは優れた社会学書になるものである。こういうところに目をつけた著者の目は鋭いと思う。著者の卒業した桃山学院大学の社会学部は私も行きたいと思ったのだが、不本意ながらほかの経済学部を選んでしまい、自分の好きなことを見つけるのが遅くなってしまった。
この本でいちばん驚いたデータは「一生懸命勉強すれば、将来よい暮らしができるか」という質問で(2002年)、父親母親ともの七割が「そう思わない」と答えていることである。こりゃあ、学校が早晩終わってしまうと予感させるデータである。本当の勉強とはいえないと思っている親も六、七割に達しているのである。
「日本の将来は明るいか」という質問では高三の七割が「そう思わない」と答えているが、奇妙なことに「幸せか」と聞かれると九割が「幸せ」だと答えているのである。身近な友だちとその日を楽しく過ごせればいいと思っている若者には、日本の閉塞状況や将来設計はもはや視野の外にあるのである。見事に江戸時代のその日暮らしの庶民に戻ってしまったようだ。
この本は悩み相談とデータにより見事に日本社会の変遷やありようを垣間見せくれる本である。そして悩み相談のなかに自分の現在の境遇や将来の悩みを見ることになるだろう。われわれはここから自分の人生を考えることもできるのである。
そして人生モデルや規範がなくなった現在、自分で選択して決断しなければならないと回答者に迫られるようになり、解決も責任も自分にゆだねられるようになった。大きなものに頼れる時代の郷愁を捨てなければならないのである。
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