タイトルイメージ
本文へジャンプ ▼テーマは社会生物学 

 


010603書評集
ちょこっと進化論的人間観




▼2001/6/3更新


 『小さな悪魔の背中の窪み 血液型・病気・恋愛の真実』 竹内久美子 新潮文庫 94/4. 400e(古本)
 『BC!な話 あなたの知らない精子戦争』 竹内久美子 新潮文庫 97/3. 400e(古本)

 もう竹内久美子の本をたてつづけに何冊も読み、この二冊は国家・社会についての本ではないのであまり興味は惹かれないが、もう惰性である。

 前著は血液型と性格の関係、後著は精子競争の話である。読みやすいし、おもしろいのは変わりはないが、やはり学術的なきちんとした見解のほうがかなり気になる。しかし私はいま金欠のため高い本には手が出せないし、安い新書系の本では社会生物学の本はあまり出ていないみたいだ。




 『仮想文明の誕生』 浦達也 光文社カッパ・サイエンス 92/9. 790e(古本)

 五感の復権、変性意識などのテーマは興味が魅かれるのだが、ほとんど得ることがなかった。




 『こんな人が「解雇」になる――リストラされた78人の教訓』 夕刊フジ特別取材班 角川oneテーマ21 01/2. 571e(古本)

 リストラされた人たちにはさまざまな個々人の境遇があり、状況があり、想いがあり、人生がある。かれらはさまざまな状況や条件をそれぞれ固有にかかえ、出口のない閉塞状況に閉じこめられている。

 いま街に出れば、サラリーマンがふつうに働き、ふつうに業務をこなしているように見えるが、じつはこういった非情なリストラや境遇が目に見えず進行しているのである。われわれは目をふさいでいるだけかもしれない。

 このルポはさまざまな読み方ができると思う。業界の行く末であったり、年代別の境遇であったり、将来の教訓や人生設計の材料とすることができるだろう。それにしてもこんな非情な状況が将来にどんな災いを残すことになるのだろう。





 『進化から見たヒトの行動』 ティモシー・H・ゴールドスミス 講談社ブルーバックス 91. 800e(古本)

 学術的な進化論的人間観の本である。竹内久美子の本のようにおもしろくて、読みやすいという本ではない。学術的で、専門用語を駆使し、慎重で、退屈である。のびのびした感じがない。わずかにおもしろいのは人間の交配行動の考察あたりと、優生学的思想が気にかかるくらいである。





 『ヒトとアリ どちらが働き者か 時間生物学からみた「仕事」と「ゆとり」の研究』 金子隆一 祥伝社ノンブック 98/10. 848e(古本)

 人間より動物のほうがスゴイ、もしくは動物のさまざまな生態が紹介され、ときには人間と比べられる。

 小さな生き物はあくせく餌をとる必要があり、大きな生き物はゆったりと余裕をもてる。これは企業規模にもあてはまり、零細企業はあくせく、大企業は遊ぶ余裕も出てくるという考察は学びたいところだ。

 ヒトが家を必要としたのはセックスを隠すためであり、巨大な都市やビルを建てたことが人間の優越性だと過信しているが、サンゴ礁は日本列島の半分以上で生物としては最大なものであり、シロアリは体の1000倍のアリ塚をつくっており、プレーリードッグは九州より広い巨大都市を築いたといったことが紹介されている。





 『サルは、なぜヒトになれないのか 生物進化を考えなおす』 香田康年 光文社カッパ・サイエンス 91/1. 770e(古本)

 ちょっと進化論のおベンキョー。これは違う、あれは違う、こっちのほうが正しい、あっちは間違いだ、重箱の隅をつつくようでつまらない。




 『利己的な遺伝子』 リチャード・ドーキンス 紀伊國屋書店 76. 2800e

 再読である。生物は遺伝子の乗り物に過ぎないという説は「ショーゲキ」なのかもしれないが、なんだか実感からかけ離れているためか、扇情的な広告に思えてしまうのはイケナイことなのか。

 読んでいてあまりおもしろい本ではないが(ワルイか?)、雄と雌の相互不信と相互搾取の関係は目が啓かれる思いがするし、生物は寄生者の寄り合い所帯のような考えはもっと追究してほしい。




 『バカゲット ターゲットはいい男』 酒井冬雪 双葉文庫 95/6. 543e(古本)

 繁殖戦略から人間を読み解こうとして参考文献になるかなと思い、読みました。人間を生物のように見なすという視点はなかなか身につかないものですね。

 この本ではイイ男と結婚するための方法論をマーケティングや遠洋漁業、底引き網などの漁法、営業、プレゼンなどの企業戦略用語で語ったことが目新しく、おもしろい。

 この企図は女の利己的なゲット戦略を皮肉るためのものか、それともケッコンは営業戦略と見なすほうが高ゲット率を確保できるためだろうか。まあ、恋愛というのは端からみていて利己的で排他的で競争的なものであり、愛他精神の欠如した企業戦略を導入しなくても、もともとそういうものであることはだれでも知っている。





 『愛のしくみ――平成の平安化』 大塚ひかり 角川文庫 91/9. 500e(古本)

 繁殖戦略第二弾として読みましたが、意外にかなりヨイ本でした。平安時代の心のありようが、現代の対比としてひじょうによくわかりよいようにできている。平安時代の社会意識論といっていいかもしれない。

 平安時代というのは弱者や脱落者にたいする残酷さはすさまじかったという。仏教思想の前世の報いが信じられていたからだ。江戸や明治になって親孝行などの儒教思想が入ってくるまで、老人に関しても同じであったそうだ。

 著者は歴史の楽しみは結婚・出産、一族の結びつき、栄枯盛衰であるという。女系図をたどれば、男系図では滅んだ一族が、繁栄していたりするのである。ハンショクから人間をみるという視点は抜け落ちさせてはいけないのかもしれない。

 あっと驚いた指摘は「保元の乱」において対立した関係が、皇族・貴族・武家のいずれもが「父と弟」VS「兄」であったということだ。兄は弟に愛をとられる運命にあり、親の注意をとりもどそうとして兄は「反抗」に走るというのだ。歴史に現れるほど普遍的なもののようだ。反抗が愛の屈折した未練だとはね〜。





 『「豊かさ」の貧困 消費社会を超えて』 ポール・L・ワクテル TBSブリタニカ 83. 2200e(古本)

 日下公人の名著『さらば! 貧乏経済学』を読んで以来、探していたのだが、やっと見つけた。

 この本のテーマは経済成長が幸福感をもたらさないのはなぜか、である。神経症的な悪循環に陥っているとワクテルはいう。共同体から得られる安心が失われ、自己の孤独ともろさから逃れるために所有や経済的進歩に慰めをもとめ、そのためにいっそう共同体の庇護が失われてゆくことになったという。心理学の問題を経済学で解決しようとしたのが過ちだという。

 消費者は物質的慰めのために週40時間の煉獄を過ごさなければならないといったことや、かつては自動的に与えられた社会的役割は自分で獲得しなければならない、故郷や過去を断ち切ってはじめて巨大な力を発揮できる、自己成長は経済成長の病にすぎないなど、現代人の悲しい一面がうきぼりにされるところは感銘した。

 だがフロイトの見解やラッシュの批判などの心理学についての言及がちょっと横道に逸れ過ぎている感がする。

 資本主義は消費者の欲望をあおって拡大生産しなければ財の分配が不可能だと思っているが、現代はすでに「労働力の一部だけで間に合う社会にどう生きるか」ということも問わなければならない。分配を拡大ではない方法で解決することが重要な問題である。

 ワクテルは共同体こそが真の充足を実現しうるといっているが、この見解には個人的にちょっと首肯しにくい感がのこるが、成長経済にのぞみをかける思考方法に懐疑を投げかける必要性はこれからもおおいにあると思う。





 『光あるうち光の中を進め』 トルストイ 新潮文庫 1892. 280e(古本)

 世俗に埋もれた生活と信仰にたいする懐疑をとりあつかった小説。無欲にたいする考え方には魅かれるのだが、残念ながら感銘は受けなかった。無欲や諦観は中国思想のほうが似合うな。





 ご意見ご感想お待ちしております!    ues@leo.interq.or.jp




 010513書評集「身体言語―社会生物学」

 |TOP|断想集|書評集|プロフィール|リンク|





























































































『利己的な遺伝子』 リチャード・ドーキンス 紀伊國屋書店
























『愛のしくみ―平成の平安化』 大塚ひかり 角川文庫

















『「豊かさ」の貧困』 ワクテル TBSブリタニカ
   
inserted by FC2 system